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幼い頃、母親は交際相手とうまくいかなくなると、直哉をつれてよくこの街へ帰ってきた。
祖父は奔放な娘に厳しく当たったが、帰ってくれば来たで何度でも受け入れたし、祖母はふだん離れて暮らす娘と孫の世話が出来るのが嬉しくて、他の兄弟がいさめても乳母日傘 の対応をやめなかった。
伯母たちの不興をよそに、日焼けした年上のいとこたちは競うように幼い直哉を可愛がった。
特に一番年の近かった弘貴は弟が出来たみたいで、どこに行くにも直哉の手を引いて連れ歩いた。
当時の直哉にとって、いとこたちがかまってくれる海辺の街での生活は賑やかで温かくて心安らぐ日々だった。
ずっとずっとここにいたい。
お母さんの気が変わりませんように……。
でも結局、母親は失恋の傷から立ち直るたび、故郷を捨てて都会へと舞い戻ることを選んだ。
直哉は引っ越しの荷物の一番上に放り込まれる使い古した目覚まし時計のように、どこへでも連れ回され居場所を与えられたが、放置された。
そして、祖父母が相次いで亡くなると、母親と直哉の帰る場所もなくなった。
以来、年賀状のやりとりさえ途切れていたのに、十二年ぶりに再会した伯母やいとこたちは、親切だった。
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