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プロローグ
人魚が子供を棄てたという言い伝えがあるのは、湾に張り出した岬の下あたりだ。
外海からの波が怒濤となって打ちつける岩壁に長い年月を経て穿たれた洞窟がある。
遠い昔、人魚が産んだ子供をその洞窟に置いて泳ぎ去り、二度と戻らなかった。
人間に捕らえられたのか、泳ぐうちに忘れてしまったのか、初めから戻るつもりがなかったのか。
言い伝えではそこまで語られてはいないが、幼い日に聞いたその昔話を、なぜか直哉は気に入っていた。
つねに沖から吹き付けるベタついた風が浜から運んでくる砂のせいで、町中どこにいてもすぐに肌や髪がザラザラになるのには、いまだに慣れることができないでいたが。
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