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今までで一番
“総合演劇祭会場”の看板が掲げられた玄関を通り抜け、ぞろぞろとエントランスホールに入る。吹き抜けの天井に大理石調のフロア、光が差し込む大きな窓。学校とはまるで違う空間に、後輩たちは落ち着かない様子で辺りをキョロキョロと見渡している。期待と緊張が入り混じるその表情に、1年前の自分を見た気がした。
すれ違う他校の生徒がやけに堂々として見えるのはなぜなんだろう。村上先生が私たちを先導し、劇場の重く頑丈そうな扉を開けた。
途端、眩しいライトに照らされ、思わず手をかざす。目が慣れるのと、足がすくむタイミングはほぼ同時だった。体育館とは比べ物にならない大きなステージに、本格的な照明設備。客席数は900席ほどだろうか。最初の出番の学校が早速リハーサルに取りかかっている。緊張感がハンパじゃない。
体の震えを抑えるように、そっと自分を抱きしめた。大丈夫、2ヶ月以上も練習したんだ。これは武者震いだ。そう思い込んでやる。
ふと隣を見上げると、瀬川は相変わらずのすまし顔だった。腹が立つけど、ちょっと心強かった。
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