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「私、あんたのそういうとこ大っ嫌い。ぜんぶ他人事みたいな顔して、何考えてんのか分かんなくて! どうせ一人でもこれっぽっちも寂しくないんでしょ?」
「なんでいつも勝手に決めつけるの? 私の気持ちなんて、何も知らないくせに!」
本番は今までで一番迫真の演技ができた。特に、転校することを黙っていた親友役の瀬川と言い争うシーンは、観客が息を呑んで食い入るように見ているのがわかった。今までにないほどの手応えだ。
瀬川は瞳に炎を灯しながら、全力でぶつかってきた。私も負けじと同じだけの熱量で、彼女に向き合った。舞台上で、私たちは対等だった。
劇を終え、舞台袖の姿見で顔を確認する。彼女が遠慮なく放ったビンタの跡が誇らしかった。
✳︎✳︎✳︎
上機嫌で控え室に向かい、衣装を脱ぎ捨てた。勢いよく水を飲み、汗を拭いて制服に着替える。
「いやー、やりきった後の水はうまいね!」
「そうだね」
瀬川とたわいもない会話をしながら、劇場に戻る通路を歩いていた時だった。ドッと、ホール全体を揺るがすほどの笑い声が反響した。
嫌な予感を振り払い、重量感のある扉を開けた。一番後ろの席に座り、そっとパンフレットを確認する。演じているのは、去年の優勝校だった。それからしばらく笑いは鳴り止まなかった。
クライマックスの感動的なシーンでは、鼻水をすする音がそこら中から聞こえてきた。まるで役者の意のままであるように、観客全員が一体となっている。私は何もできなくて、ただ釘付けになるしかなかった。セリフは右の耳から左の耳へとすり抜けていった。
おそらく劇が終わったのだろう。幕が閉まるやいなや、カーテンコールが始まった。観客が一斉に立ち上がる。スタンディングオベーションだ。きっと今劇場内では、拍手喝采が鳴り響いているに違いない。なぜか何の音も耳に入らず、どこか遠い国で起こっている出来事を眺めているような感覚だった。
私はふらふらと立ち上がり、ずっしりとした扉を開け、通路に出た。足をもつれさせながら、トイレに向かう。鏡に映る自分は泣き出しそうな、笑っているような、今までで一番マヌケな顔をしていた。ビンタの跡はとっくに消えていた。
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