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勝者と敗者
✳︎✳︎✳︎
「主役のエミ役は……瀬川!」
またかよ。
それが率直な感想だった。
これまで私は勝者だった。テストの点はクラスでトップが当たり前。リレーではアンカーを任されるし、美術の授業で描いた絵はコンクールで入賞した。人と競うのが好きだった。
だけど1年前の4月、この東中学校の演劇部に入部してからというもの、私はずっと“敗者”だ。今回のオーディションだってそう。先輩さえも差しおいて主役に選ばれたのは、またしても同級生の瀬川 弓月だった。
顧問の村上先生に前に出てくるよう言われ、瀬川がのそりと立ち上がる。先生の横にならんで、私たちを見下ろしながら、顔色一つ変えることなく「がんばります」とのたまった。
すましやがって。もっとうれしそうな顔しろよ。なんでこんな奴に負けなきゃいけないの。私だってがんばったのに。
じんわりとにじむ視界の中、瀬川がちらりと私を見た。そして、ぴくぴくと口の端をゆがめ、笑った。
馬鹿にされたんだ。
そう気づいた瞬間、体がカッと熱くなる。コイツだけは絶対にゆるさない。心の奥底で、ぐつぐつと憎しみの煮えたぎる音がした。
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