54人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
結局、私が選ばれたのは“友人B”役だった。たった5つしかセリフがないちょい役だ。3年生の先輩方がいることを考えると、役をもらえただけでもありがたいのかもしれないけれど。主役の瀬川に比べると、出番はかなり少なかった。
本番は3週間後に控えている。新入生勧誘のため、放課後に短めの劇をやるのだ。今日からさっそく読み合わせに入った。みんながおぼつかない朗読をする中、瀬川だけがまるで何ヶ月も練習していたかのようなクオリティで役をこなした。
✳︎✳︎✳︎
「まだ帰らないわけ?」
ひとり部室に残り、台本と向き合う瀬川に声をかける。早く帰れよ。内心そう付け加えた。朝誰よりも早く来て、夜は最後に帰る彼女が目障りだった。
「もうすこし残る」
瀬川は一瞬だけ顔を上げ、すぐに目を落とした。それとなく台本を盗み見ると、ピンクや黄色、水色、いろんな色の蛍光ペンでセリフがマークされている。ものすごい量の書き込みも見えた。努力の結晶みたいな、くしゃくしゃの台本。私はギュッとかばんのひもを握った。
「いいよね、暇で。私はこれから塾だからさ。あんたみたいに、部活だけやってればいいってわけじゃないの」
言ってやった。少し、スカッとした。ドキドキしながら瀬川の反応を待つ。私を見上げる彼女はいつも通りのポーカーフェイスだった。
「うん。山野さんは成績もよくてすごい。私、頭よくないから」
たどたどしい日本語。成績“も”というところに彼女の育ちの良さを感じ、うんざりする。嫌味が通じないところにも腹が立つ。自分のちっぽけさを思い知らされているようで、話せば話すだけ、彼女のことが嫌いになる。
最初のコメントを投稿しよう!