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その日、村上先生は何度目かわからないため息をついた。理科の授業で習った、雲の種類をぼうっと思い出す。先生の口から吐き出されるのが雲のかけらだったなら、もう積乱雲くらいは大きくなっているだろう。いつ激しい雨が降り出しても、おかしくない。
読み合わせ練習はめちゃくちゃだった。瀬川と全く息が合わず、何もかもがダメダメだった。問題は私にある。彼女の演技力についていけないのだ。焦ると余計に役に没入できない。早口になってしまい、セリフを噛みまくる。
「休憩しよう」
先生が席を立ち、部室から出て行く。瀬川が何か言いたげに私を見つめた。
「何よ。言いたいことがあるなら言ってよ」
「……怒ってると、言いづらい」
「はぁ!? 怒ってないでしょ!」
少し眉尻を下げた困ったような顔が無性に鼻につき、つい声を荒らげてしまう。瀬川は遠慮がちに口を開いた。
「このセリフはオーバー気味に突っ込んでほしい。その方が盛り上がる。このシーンは少し間をためて、笑いを誘う方がいい」
ぐうの音も出ないほど真っ当な指摘だった。だから余計に、悔しかった。
結局その日は何度やっても上手くいかず、早々に解散となった。瀬川は反省した様子で、居残って練習すると先生に伝えていた。あんたは何も悪くないのに。そう思ったけど、言えなかった。
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