踊り場の友情

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「やばいよ、人来ちゃう」とたしなめる伊藤先輩に笠井先輩が舌打ちし、二人は部室から出て行った。手がいまだに震えている。床に散らばった台本が目に入り、途方に暮れた。こんなにされてしまったら、もう元には戻らない。  瀬川が戻ってくる前に、片付けなきゃ。  細切れになった台本をビニール袋にかき集め、かばんの奥のほうにしまった。涙をぬぐい、部室を飛び出した。瀬川に会わなければと思った。 ✳︎✳︎✳︎  彼女の姿をとらえたのは近くの階段の踊り場だった。掃除当番なのだろう。一人でほうきとちりとりを持ち、背中を丸めている。不器用な手さばきで、集めたほこりがなかなかちりとりに入っていない。 「瀬川っ!」  駆け寄る私に瀬川は目を丸くした。 「どうしたの?」 「あのさ、部室に先輩が遊びに来てて。瀬川の台本、間違えて持って帰っちゃったんだって。さっきメッセージ来て」  かなり無理のある嘘だ。だけど、彼女はお馴染みのポーカーフェイスで「そうなんだ。困った」とぽつりと呟くだけだった。 「私の台本持ってきたから、部活が始まるまで読み合わせしよう」 「こ、ここで?」  戸惑う瀬川からほうきとちりとりをぶん取って、ごみをかき集めながら答える。 「そうだよ。親友役なんだから、息が合ってなきゃ。やるからには優勝したいじゃん」 「うん」 「悪いところがあったら教えて。遠慮したら容赦しないから」 「わかった」  瀬川は頷き、嬉しそうにはにかんだ。初めて見る表情に少しドキッとしてしまった自分にムカついた。
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