煙草とペトリコール

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 ペトリコールに混じって香る煙草の煙は少し苦い。そういえば、と「煙草は恋人」などと宣っていたことを思い出した。  そうなのだろう。そうなんだ。そういうことなんだ。……そう頭の中を埋め尽くす全てを抑えつけ、煙草に火をつけた。慣れない喫煙に少し咽せ、「下手くそ」だと笑われたことを未だに根に持つ自分に小さく苦笑した。  灰が微かに落ちた。しかし煙草の煙は既に無かった。いくらも減ってない煙草を足で揉み消す。薄いサンダルから少し焦げた臭いがして、薄く顔を顰めた。  短パンのポケットに入れたケータイ電話の着信を待って何時間経つか。こぞって縁日に出掛けていく学生達を軽く手を振って見送りながら、焚いた蚊取り線香はいくつ目だろうか。  ペトリコールが薄れていくにつれ、煙草の臭いが鮮明になっていく。そうなのだろう。そうなんだ。そういうことなんだ。『煙草は恋人』。  ケータイ電話をポケットから取り出す。 「もしもし」  ペトリコールはとうとう消えた。 「もう会うのやめよ」
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