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日の光が障子を明るく照らしている。
青藍が住居と仕事場に使う家屋の二階に通された女は、六畳間の真ん中にちんまりと正座した。女は道すがら夜明と名乗った。夜明は怯えた様子で部屋の中を見渡した。
「あの……」
「脱げ」
「はい?」
「脱げ早く。着物」
手短にすぎる言い方で促すと、夜明は血相を変えた。
「待ってくださいそんな、いくら私が値打ちのない生娘だって、いきなり出会った方とまさか、そんな、そんな女ではありません!」
「勘違いすんなよ。てめぇをどうにかしようなんて気はねぇ。というか生娘なのかよ。だから何だよ。俺ァな、名の知れた賊の頭どもがこぞって金を積むほどの腕を持つ刺青師だ。その俺が今からお前の背中に刺青を彫ってやろうってんだよ、しかもタダでな。てめえの幸運に感謝しやがれ」
青藍がニタァと笑むと、夜明は物凄く嫌そうな顔をした。
「なに言ってるんです? 刺青? 嫌ですよ、だって針でしょう? すっごく痛いんでしょう?」
「痛えさ。そりゃもう鬼がヒィヒィ許しを乞うくらいの……」
言い終わらぬうちに夜明が脱兎のごとく逃げ出した。させるかとばかりに青藍が紐を引く。すれば柱に繋がれた紐がピンと張り、足を引っ掛けた夜明がバンと床に張りついた。
「鬼ぃ!」
「ほぉー? なら選べ。今から店に戻って切腹するか、もしくは俺様の針をありがたーく頂戴するかってなぁ」
馬乗りになって細い顎を引き寄せる。夜明は目を白黒させたが、ようやく逃げるのは諦めたのか、ぐったりとうなだれた。
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