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いつしか日は落ちてオイルランプに火が灯り、その油が尽きるころになりようよう空が明け始めた。青藍はついに針を置いた。
夜明はとうに泣く力を失っていたが、眠れるわけもなかったか、夢とうつつの狭間で苦しみ続けたようだった。障子の隙間から差し込む朝日が夜明の頬の涙に溜まって鈍く光った。
ここまでくればあとは色揚げだけである。
色揚げとは、彫り上げた体を湯殿に沈めて余分な顔料を洗い流し、色素をしっかりと肌に染み込ませるための仕上げの作業のことだ。
自力で起き上がれぬ夜明を横抱きに抱いて、湯殿に運んだ。自身の着物が濡れるのも構わず、桶ですくった湯を少しずつ体へ掛けてやる。
そっと湯の中に夜明を下ろすと、その顔が苦渋に歪んだ。刺青に湯が染み込むと耐えがたい痛みを得るのだ。湯の中で優しく背中を流してやれば、
「アア──ッ!」
激しく痛がって手がつけられない。
今や比類なき至宝となったその体を引き寄せ、その腕を己の首にしっかりと回し込ませた。
「いいか、痛いと思ったら俺にしがみつけ」
耳元に囁きかけるとこくんと返事が返った。
湯の中で腰巻きまで全て解いてやってから、手のひらで手負いの背中を丁寧に洗ってやる。
「あああっ!」
夜明は力いっぱい首にしがみついてきた。
まるで迷子の幼子に頼られているような可憐さに柄にもなく胸が熱くなった。
鎖骨の窪みにわずかに湯が溜まっている。体は確かに二十歳なのに、ぐずりあげるさまは子供のようで、その釣り合わぬ心身が庇護欲とともに情欲をそそった。
湯浴みが終われば流し場で瀕死のようにうち震える体に手ぬぐいを当ててやり、布団に横たえた。
きのう剥ぎ取った衣服の山から襦袢を引き出して肩にかけてやると、ふいに夜明が青藍の手を引いた。なにか不安でもあったのか、夜明は青藍の左手を口元に寄せると両手で抱きかかえる仕草をする。
それで青藍の中でわずかに耐えていた我慢の糸が、ぶつりと切れた。
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