かわいそうに

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かわいそうに

 薄暗い寝室のなかで、白く艶やかな若い肢体がしなやかに揺れる。部屋の空気をも濡らす汗はとうの昔に解け合って、もはやふたりに境などなかった。その瞬間私は彼女で、彼女は私だった。  まるで今日この日に出会うことを宿命付けられていたかのように私の全てが彼女の中にガッチリと噛み合うような感覚。きっとそれを感じているのは私だけではなかったはずだ――これまで見た誰よりも艶やかに、激しく、何もかもを包み焼き尽くす炎のように揺れる肢体は垂らす汗で、胸の上に突いた手で、貪欲に私を吸収しようとしてきていた。飲み込まれまいと、流されまいとする私を嘲笑うように官能の奔流は荒れ狂い、理性など救いに垂らされた糸よりも容易く切れてしまう。  溺れても掴む藁すら見つけられないまま、私は彼女の柔らかくハリのある腰に手を添える。その柔らかさだけが確かなものであり、触れていられることへの安堵はとても大きかった。この少女はいくつくらいなのだろう、娘たちよりだいぶ若いのは間違いない――そんな年頃の娘相手に情けない限りではあったが、私にできたのは快楽の濁流のなかで離されないよう、懸命にしがみつくくらいであった。そんな私を嘲笑うような吐息と一際艶めいた嬌声が、ようやく命を削る濁流の終わりを告げた。  ようやく、私は自分たちが寝室にいることに気付いた。無我夢中で、ただ貪るように行為に没頭したのはいったいいつ以来だろうか――妻があまり積極的な女ではなかったから、私も知らず知らずのうちに遠慮をするようになっていたが、もうその必要もないのか。ここにきてようやく、妻がいなくなったことのメリットを見つけることができた。  それと同時に、ベッドの上で仰向けに寝転がる少女の疲弊した様子が目に映る。私に微笑みかけ、誘ってきたときの余裕はもはやどこにもない――そんな様子を目にして(たぎ)るものを圧し殺せるほど、私は理性的でなかったようだ。久しく忘れていた自分の性分に半ば呆れながらも身体を起こし、彼女の上で四つん這いの姿勢になる。  ……改めて見ると、本当に美しい少女だった。その若々しさ、そしてどこかに残る幼さとそれと相反するような妖艶さというだけではなく、肢体そのものもまるで美術館に展示される彫像のように均整のとれた、「完璧」や「理想」という言葉が当てはまるようなスタイル。  そんな女を、今の私は自由にできるのだ。  はたと気付いたその事実に、背筋から震えが走るほど興奮する。緩む口元を押さえてどうにか年長者としての威厳を保とうとしたが、そんな余裕などとうになくしてしまっていることなど見透かされているだろう。  部屋の薄暗い照明に照らされて、汗ばんだ肌が艶かしい。そんな彼女が気だるげで淫蕩(いんとう)な視線で私を挑発してくる。なぁそうだろう、その目は私を誘っているのだろう? 精魂尽き果てたはずの身体から溢れかえる欲望のまま、彼女を組み敷いたとき。  艶を帯びていた目が、ふっと冷めて。 「可哀想に、ずっとこんな人と一緒だったなんて」  そう呟いて、彼女はにっ、と口元を歪めた。
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