0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「最初は試験運転かと思ったんだよ…」
友人“L”は、自身の体験を振り返る。
彼が住む地元は、近年、田畑と旧住宅地をぶっ潰し、国道に続く、新しい道路を引いた。
その影響もあり、周辺の騒音や事故の件数は増えたものの、
数年も経てば、住民の交通手段として、ごく当たり前のモノになっていく。
しかし、東の震災に続く不況、首都圏から離れた田舎と言う事もあり、
夜9時以降、とにかく夜中になれば、通る車も無い。
およそ10キロメートルに続く道路を、オレンジ色の街頭が照らす、この道を、Lはよく
利用していた。
ある暑い夜の事だ。コンビニから自転車を飛ばす彼の横を、ゆっくりと黒い車が並走してくる。自動車を飛ばすLのスピードは15キロ、40キロ制限の道路では可笑しい。
L自身は会った事はないが、迷惑行為を行う車か?
当時は、まだ、煽り運転の罰則が厳しくなく、テレビでも取り上げられていなかった。
だが、聞いた事はある。警戒するように速度を上げる彼に合わせるように車は並走してくる。
(一体、何だよ?)
舌打ちした彼は車の方を向く。夜の闇のせいか、車内はよく見えない。いや、見えている。ハンドルに、座席…そこで気が付いた。人がいない。
運転手が乗っていないのだ。しかし、車は動いている。ゾッとすると同時に気づいた。
「当時はAIが仕事を奪うとか言ってたし、海外では無人運転の車が試運転してた。だから、それを田舎の道路でやってるのかと思ったよ。だけど…」
不意に車が加速し、歩道に乗り上げてきた。自動運転にこう言った機能があるのか?と驚くLの前に止まった車は静かに後部ドアを開けた。
道を塞がれ、慌てた彼は、自転車を反転させ、車の入れない横道に逃げ込む。後ろを振り返る彼の目に、横道の入口いっぱいに、車の前部が突っ込んでいる姿が映った。
この日以降、そして、昨今の外出自粛を踏まえ、夜の外出を控える彼は、最後にこう締めくくる。
「どうなってたんだろうな…アレに乗ったら…」…(終)
最初のコメントを投稿しよう!