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こちらをチラとも見上げないところを見るに、スカイには、デュナが羽振りのいい理由が分かっているのかもしれない。
考えに没頭すると、すぐ周りが見えなくなる私に対して、スカイは何かに集中していても周りには常に気を配っていられる人だった。
「実はね、あのおじさんに、ブラックオウザスの牙を買ってもらっちゃったのよ」
ニヤリと悪い笑みを浮かべて、デュナが答える。
顔には髪の影が落ち、メガネだけが怪しく光っている。
ブラックオウザスというのは、私達と今朝戦闘になった黒い獣の名前だった。
「へぇ、そうなんだ。牙が薬になるの? 知らなかった」
うんうんと満足気に頷くデュナ。
「それで、いくらで買ってもらえたの?」
私の声に、ギシッと一瞬デュナが固まったように見えた。が、すぐにグラスを引き寄せると、泡がはじける琥珀色の液体を流し込んだ。
このお店のジンジャーエールには、通常の物と辛口の物の二種類があって、デュナが飲んでいるその辛口のジャンジャーエールは、私やスカイではむせてしまうほどキツいものだった。
「さ、さんぜんよ、さんぜん」
微妙にカタコトなデュナの言葉に、スカイが顔を上げないまま突っ込む。
「絶対それの倍はもらってるな」
「えっ! てことは、六千ピース!?」
私の声に、ちらほらと店内の人達の視線が集まる。
うわー……ちょっと大きな声出しすぎちゃった……。
「ちょっと、声が大きいわよ、そんなたいした額じゃ無し……」
確かに、道行く人の財布に、六千ピース入っていたところで、驚くような額ではないが、私の財布に入っているのだとしたら驚く。
そんな額だった。
具体的にいうならば、十代二十代の一般職に勤める人のひと月の給料の、まあ三分の一程といったところである。
「そもそも、牙だけでそんな額もらえるはず無いじゃない」
「牙に、爪に、目玉まで拾ってただろ?」
そっとフォークとナイフを揃えて、スカイが顔を上げた。
「うぐっ、あんた、怪我治してたんじゃなかったの?」
「治してもらいながらでも、そのくらいは気付くって。どうせまたくだらない研究費に充てるつもりだったんだろ」
「そのくだらない研究の成果に、あんたは今日救われたのよ?」
「救われたと同時に死にかけただろ!!!」
スカイの声に、また店内の注目が集まる。
「ま、まあまあ……。 実際、いつもデュナの研究には助けられてるんだし……」
なんとかなだめようとすると、スカイが鋭く振り返った。
「こういうの見逃したらダメだって。大体、俺が突っ込まなかったら、三千ピースは全部デュナの懐行きだぞ?」
「うーん……。でも、見つけてきたのも拾ってきたのもデュナなわけだし……」
私の言葉に気を良くしたデュナがふんぞり返る。
普段は白衣に隠されているが、そのプロポーションはなかなかのものだ。
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