1.はじまりの朝

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自分より六つほど幼い、ふわふわのプラチナブロンド頭を軽く揺すって、私達は森の出口へと歩き出した。 十分ほど歩いただろうか。そろそろ森の出口も見えようかという頃になって、その音は聞こえた。 低く、底に響いてくるような不愉快な音。 それも、一つ二つではなかった。 「……囲まれたわね」 苦々しく呟くデュナの声が聞こえる。 振り返ると後ろの草陰からも、赤く光る鋭い眼差しがこちらを見据えているのが確認できた。 「あー、でもさ、こう、そーっとやってきて、ガバッと襲ってくるようなのじゃなくてよかったよな」 短剣を両手に構え、若干腰を落とした姿勢のスカイを、デュナは一瞥する。 「そういう手合いは一匹で来てくれるから、あんたが食われてる間に倒せば済むわ」 「俺かよ!」 デュナは弟に取り合う様子もなく続ける。 「こんな風に、団体で来られる方がよっぽど厄介だわ……。こいつら一斉に飛び掛ってくるわよ?」 じりじりと包囲を狭めてくる黒い獣達が、一匹、また一匹と草陰から姿を現してくる。 低く伏せたその黒い塊は、いつ飛び掛ってきてもおかしくなかった。 姿が確認できているだけで、七匹は居る。 そう大きくない毛の長い狼といった風体だが、体格に不釣合いなほど大きな爪と、唸り声を上げる口の端からのぞく鋭い牙。 闇に溶ける黒い毛皮から覘く真っ赤な眼に、否応なく恐怖心を煽られる。 と、右肩がずしりと重い事に気がついた。 見れば、ふわふわのプラチナブロンドがマントの裾にしがみついている。 その顔は明らかに青ざめ、特徴的なラズベリー色をした大きな瞳に恐怖の色が滲んでいた。 「フォルテ、大丈夫だよ、相手はレベル四十くらいだから、十分倒せるよ」 なるべく優しく話しかけて、左手で頭を撫でる。 フォルテが右裾にしがみついているので、少し無理のある仕草にはなったが、今、利き手から杖は手離せない。 まあ、レベル四十くらいの敵を確実に倒せるのは、私達四人に対して、相手が一匹である場合なんだけど。と胸中でこっそり付け足したとき、黒い影が一斉に地面を蹴った。 右前、正面、左後ろ……咄嗟に、正面にから飛びついてきた一匹に杖を向け叫ぶ。 「お願いっ!」 声を合図に、杖の先端の球に宿っていた光の塊が飛び出す。 ギャン! と鳴き声を上げて落下する獣。 それが地面に触れるのを確認し終わらないうちに、視界が塞がれる。 鋭く空を凪ぐ音と、獣の悲鳴。スカイの背中が、その間にあった。 右からの獣は、短剣で額に大きく傷を負ったようだった。 ちらと左を見ると、後ろから飛び掛ってきていた獣は 前足を片方上げてひょこひょこしながら体勢を整えている。 こちらも、スカイにやられたのだろう。 正面の獣が起き上がり、頭を振ってこちらに向き直る。 デュナ側は数匹くらい仕留めたのかも知れないが、後ろを振り返る余裕はない。
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