1.はじまりの朝

3/4
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
目の前の獣達は、まだまだ戦意を失うことなくこちらを睨み付けている。 「スカイ! 獣の気を引いて!! ラズ達はこっちに!」 デュナの声に弾かれるように、スカイが獣達の間に突っ込む。 私の正面の獣が、私から視線を外すやいなや、フォルテの腕を掴んでデュナに駆け寄る。 デュナの足元には三匹の獣が黒焦げになっていた。 「以上の構成を実行!」 デュナの声に、私達と獣達を隔てる見えない壁が生まれる。 障壁だ。 障壁の向こうから、ガチャンという音がくぐもって聞こえたかと思うと、次の瞬間、爆音が響き渡った。 爆風も、土煙も、目の前の壁に弾かれ左右に流れてゆく。 轟音に混じって聞こえてくる、獣達と、スカイの断末魔。 「「スカイ!!」」 私と、フォルテの声が重なった。 まだほんの少し朝の匂いを残した空気に、思いのほか早く土煙が収まってゆくと、地面にはところどころが吹き飛んだ黒い塊がいくつも落ちている。 その中には、デュナが投げ込んだらしきフラスコの破片もあった。 ガラスがあちこち融けかかっているところを見ると、爆心地は相当な温度になっていたようだ。 スカイは、髪こそ鮮やかなブルーだが、服は森に紛れる緑で、肘上からあるロンググローブ、ブーツ、クジラのバンダナに至っては黒づくめだった。 この黒い破片の中に、彼の欠片が混ざっているのではという考えが頭を掠めたとき、少し離れた場所から大いに咳き込む声が聞こえた。 それと同時に目の前の壁が霧散してゆく。 「ちょっ……ねーちゃんっっ! こういう事はやるならやるで事前に一言……っ」 そこまで一気にまくし立てて、またげほげほと苦しそうにむせる。 どうやら爆煙を多少なりとも吸ってしまったらしいスカイが、ふらふらとやってくる。 服のところどころが焦げているのがここからでも確認できた。 「言わなくてもわかってるじゃない」 悪びれるそぶりもなく言い放つデュナに、スカイはその場でがっくりとうなだれた。 肩で、まだ大きく息をしながら咳き込んでいる。 フォルテがトコトコと駆け寄り、「大丈夫?」と心配そうに背中をさすった。 獣にやられたのであろう、切り裂かれた痕が肩や足に残っている。 傷を癒す為、神への祈りを唱えながら、スカイに近付く私に、デュナが声をかける。 「浄化も一緒にお願いね。あの煙、有害物質の塊だから」 「ねーちゃんっ!!」 スカイの抗議の声に、デュナがぴくりと眉を上げる。 「一度ならず二度までも……」 そのままツカツカとスカイに近付くと、スカイの耳をつまんで引き上げる。 「いでででっっ」 「外では、名前で呼ぶように……言ってあるわよね……??」
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!