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固まってしまったまま、みるみる赤くなっていくフォルテ。
「私、ミリィって言うの。はじめまして、よろしくね」
フォルテより、歳も背も小さな女の子がハキハキと自己紹介をする。
その子によく合う、可愛い名前だった。が、ここはフォルテに返事をさせるべきだろう。
私が口を出すのは、もうちょっと後に……、と思うのだが、当のフォルテは固まったままである。
スカイが優しく声をかけた。
「ほら、フォルテ、挨拶してごらん。俺らがついてるからさ」
ぎくしゃくとした動きで、微かにスカイに頷いたフォルテが、そのまま私の顔を見上げてきた。
ニッコリと出来る限り優しい笑顔を向ける。
この子が頑張れますように。精一杯の祈りを込めて。
ほんの一瞬、ホッとしたような顔をして、フォルテがミリィに向き合った。
「…………わ……、私……その……」
途端、バターンと豪快な音を立てて、薬屋の扉が開け放たれた。
「うふふふふふふ……」
扉の向こうで、仁王立ちのデュナがなにやら怪しげな笑いを洩らしている。
その表情は、メガネの反射に遮られ、読むことが出来ない。
フォルテはというと、突然の音に驚いて、すっかりマントの後ろに戻ってしまっていた。
「おいおい、ねー……じゃない。デュナ! いきなりそんな思いっ切り扉開けたら危ないだろ!!」
扉は内外両方に開くタイプだったが、今回は思いきり外に開かれている。勢いが良すぎたのか、扉が戻って来ていない。
私達は、たまたま扉の当たらない位置に居たが、もしそうでなかったらと思うと、確かに空恐ろしかった。
デュナはそんなスカイの声を全く無視して、高らかに声を上げた。
「さぁ、美味しい物食べに行くわよー!」
足元では、ミリィがぽかんとデュナを見上げている。
そんな少女とその母親に、スカイと私でそれぞれ頭を下げて、さっさと歩いて行ってしまったデュナの後を、私達はバタバタと追いかけた。
薬草集めで貰える報酬は、はじめから決まっていた。
八百ピース。四人で美味しい物を食べれば、それだけで消えてしまう額だ。
先ほどの戦闘でデュナが投げた二本の薬瓶……それぞれの薬品を混ぜることにより爆発を起したのだろう。
爆発跡にはフラスコの破片が二本分あったように見えた。
その経費を回収するためには、お昼は美味しい物というよりも、安くて、不味くない物で済ませなくてはならないはずだった。
デュナは、冒険にはおよそ不向きなヒールの高い靴で、軽快に私達の前を歩いている。
後ろから窺い見る限り、その機嫌は、すこぶる良いように見えた。
やはり、あの薬屋で値段の交渉でもしたのだろうか。
実際、薬草を渡して決められた金額を受け取るだけにしては、時間がかかりすぎていた。
とにかく、デュナに聞いてみるのが早いかと、足を速めたその時、彼女がピタと立ち止まった。
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