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慌てて止まろうとするも勢いが殺せず、デュナの背中が目と鼻の先に迫ったとき、後ろから両肩を力強く引かれる。
スカイだった。
「大丈夫か?」
「う、うん……危なかった……」
早鐘を打つ胸をなでおろしながら、デュナを見上げる。
彼女の視線の先には、沢山のクエストの募集記事が貼り付けられた掲示板があった。
「ちゃんと回り見とけよー」
彼の忠告はいつも不思議と嫌味なく聞こえる。
そんなことを思いながら、私も掲示板に目を向けた。
左手にフォルテがまとわりついてくる。
考え事をしながらデュナを追いかけたせいで、少し置いてけぼりにしてしまったようだ。
その小さな手をそっと握り返すと、フォルテは美味しそうなラズベリー色の瞳を細めて嬉しそうに微笑んだ。
「これ、いいわね。期限一週間でトランドまで。書籍を届ける依頼だわ」
デュナの指した小さなメモを皆で覗き込む。
フォルテには見づらい高さに貼られたメモだったが、スカイがひょいと抱き上げて見せていた。
十二という歳のわりには小さいフォルテだったが、その分軽い。
読み書きも、難しい単語が出てこない限り問題ない。
その点、こういったクエストの張り紙は、体力勝負で教養はちょっと……という人でも読めるように書かれている事が多く、フォルテにも十分理解の出来る内容だった。
「本の数は……二冊だな」
スカイが口に出して確認した。
以前、すぐ隣町へ書籍を届けるクエを引き受けたことがあるのだが、数についての記載がなかったものを、数冊だろうと軽く考えて酷い目に遭ったことがある。
せめて、馬車持ち推奨というように書いてあれば気付いたのだが……。
私達の移動手段は、もっぱら徒歩だった。
もっとも、商売をする人達や、人数の多いパーティー、よほど腕の立つ冒険者以外で、馬や馬車を持っていることもまた珍しいのだが。
「じゃあ、これ申請してくるわよ」
皆の意思を確認して、デュナが張り紙を剥がした。
そのまま掲示板脇の小さな窓口に持って行く。
デュナが軽くノックすると、小さくガラス戸が開くのが見えた。
あそこで冒険免許証とPT登録証を提示して、クエストを引き受けることを伝えれば、あとは管理局の人が、依頼主に連絡をしてくれるという寸法だった。
依頼主が管理局にクエストの募集掲載料を払っているからこその仕組みではあったが、私達にとっては無料で使える有難いシステムだ。
二十年ほど前から、申請の際に管理局が今までのクエスト遂行履歴より、遂行可能レベルかを判断して許可を出すようになり、初級冒険者達のクエスト失敗率もぐっと下がったらしい。
大きなひさしのついた、大きな大きな掲示板の前では、まだスカイに持ち上げられたままのフォルテが、普段は目の届かない高さのクエストを読み漁っている。
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