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真ん中から下の張り紙は、雑用ばかりが並んでいるが、それより上の物は、眺めるだけでもワクワクするものが多い。
囚われの姫の救出などという張り紙を見つけたときには、いつあれが剥がされるだろうかと毎日覘きに行ったものだ。
掲示板には、難易度の高いクエストほど、高いところに貼られる傾向があった。
誰でも出来そうな仕事は誰にでも見える位置に。
誰でもは出来ない仕事は見づらい位置に、と言う事なのだろうか。
腕の立つ冒険者が皆、背が高いわけでもないだろうに……。
などと、ぶつぶつ呟いているうちに、デュナが戻ってきた。
……そういえば、デュナに何か聞こうとしていた気がするのだが。
思い出せないままデュナについて歩いて行くと、安くて量があってそこそこ美味しい、いつもの大衆食堂ではなく、そこまで高くはないけれど、お味は絶品の隠れ家的レストランの前に着いた。
ああ、そうだ。
薬屋の主人から報酬をいくら貰えたのかという事を、聞こうとしていたんだった。
レストランの扉を開けて、スカイが呼んでいる。
「中入るぞー」
足元では、フォルテがキラキラと瞳を輝かせていた。
このお店のスイーツはちょっとしたものだ。
メニューを思い浮かべると、急にお腹が減ってきた。
「行こうか」
「うんっ」
フォルテの手を引いて、扉をくぐる。
その後ろを、音もなく戸を閉めてスカイが続く。
デュナはもう中のようだ。
「ねぇ、デュナ、薬屋さんからいくら貰えたの?」
山葡萄のジュースが三分の一ほど残ったグラスの中をストローで無意味にかき混ぜながら、向かいに座る白衣の女性に声をかける。
レストランで白衣というのは、どうも場違いな気もするのだが、脱いだら脱いだで、目に鮮やかなルビー色のキャミソールが、しかも丈は短くてヘソまで出ているとなると、ここは大人しく着ていてもらう他無い。
ちなみに、下は光沢のあるブラックレザーのタイトミニスカートに、編みタイツ。
足元は、さすがにピンヒールではないものの、ヒールの高い黒のエナメル靴に、ゴールドのチェーンが装飾されていた。
どこから見ても、冒険者には見えそうにないが、マッドサイエンティストには見えそうである。
私の質問を受けて、デュナは怪しくメガネを光らせた。
「ふふふふふ……。知りたい?」
その雰囲気に、素直に頷くことを一瞬躊躇してしまう。
「う、うん……。えーと、聞いていい話なら……」
フォルテに聞かせられないような話でないことを祈りつつ、心持ち姿勢を正して彼女に向き直る。
隣で、皿に残るポテトのクリームをせっせと掬っていたフォルテも、顔を上げてデュナを見つめた。
一方スカイは黙々と魚の身を拾っている。
器用な彼の手にかかれば、どんなに骨の多い魚だろうと、一欠片の身も残らない。
また、彼自身、こういったチマチマした作業をするのが好きなようだった。
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