赤に染まった駄作でも

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「怖くないか?」 「先輩と一緒なら、怖くないです」  はっきり言おう。僕達の人生は駄作だった。小説や漫画になったらレビューは最底辺の、クソみたいな物語だ。学校の中で自殺するなんて、周りの人を何も考えて無い。死ぬ理由も在り来りで、余韻も無いまま終わる。そんな駄作でしかない人生ももうすぐ終わる。でもそんな駄作でも良かった点が1つだけある。西岡に出会えた事だ。 「西岡、俺は許すよ。君が僕を巻き込んだ事を。君はどうだい?」 「……私は許しません。自分の事も、先輩の事も。だから先輩も私を恨んで、許さないで下さい」  西岡の呼吸が浅くなる。眠るように死ねると聞いていたが、まさか飲んで数分経っても会話できるなんて、なんて親切な錠剤なのだろうか。 「許さないで」 「許すよ」  そんな押し問答が何回も続いた。互いに終わりが近い。息が浅くなる。 「先輩」 「何?」 「おやすみなさい。また、地獄で」  そう言って声が聞こえなくなった。僕も意識が曖昧になってきた。  ふと目の前で上映されていた映画のエンドロールが終わって、エピローグに入った。  主人公は死んでいなかった。錠剤の適切な量は4粒で、彼は2粒しか飲んでいなかった。そしてヒロインと仲直りしたかのように、手を繋いでいた。  そんなご都合主義な、幸せな世界が進んでいく。僕は何故かその駄作に涙を流していた。  なぜ泣いたのか。救いが欲しいわけじゃない。じゃあ答えはひとつじゃないか。  彼女も趣味も好きな食べ物も無い僕に最後に残った想いが「恋」だった事に、やっと気づけたからだ。 「ゆるすよ、にしおか」  駄作だって、恋をするのだ。
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