赤に染まった駄作でも

3/12
前へ
/12ページ
次へ
 青春は常に不平等に存在していて、スマホの奥には過剰な青春を楽しむ者達がいっぱいいた。  それを羨望の眼差しで見つめる僕は、教室の隅でひっそりと息をしていた。キラキラと輝いている彼らの目を嘲笑うように、何処までも鈍痛を抱えたまま。  実を言うと僕の学校生活の唯一の楽しみは、部活動だけだった。演劇部という名の映画鑑賞会と言ったもので、部員は僕と後輩の2人しか居ない。 「こんにちは、先輩」 「ああ」  後輩の西岡美咲が教室に置かれた椅子から挨拶をしてきた。彼女はバスケ部に所属していたらしいが、コーチの度重なる体罰に嫌気がさし、部活を辞めた。そして第2の部活としてこの演劇部を選んだらしいが、僕と一緒に映画を見るだけなんて、苦痛なだけだろう。それでも毎日部活に来て華やいだ笑顔を見せるのは、何か意図があるのだろうか。  何を見るかは当番制で、今日は僕の担当だった。今日は在り来りなゾンビ物だ。世間では良い評価だったらしいが、気に入るかは別問題だった。 「先輩って本当にパニック映画が好きですよね。それとグロテスクなのも」 「どうせ創作なら、刺激的な物を観たいだけだよ」  映画が始まって、過剰な程の血が画面の奥で流れていた。西岡は無表情で映画を見ている。呻き声と悲鳴が絶え間なく流れて、マチェットがブンブンと容赦なくゾンビ達を切りつける。 「……先輩って、彼女いるんですか?」 「いないよ」 「先輩の趣味は何ですか?」 「何も無いよ」 「好きな食べ物は?」 「特に無い」  ふふっ、と笑い声が聞こえる。 「じゃあ、私と同じですね」  西岡はそう言って、また無表情に戻った。  どくんと心臓が跳ねた気がした。  そして後日、僕は彼女が人を殺す場面を見る事になる。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加