赤に染まった駄作でも

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 その光景には「赤」しか無かった。赤に染まった死体。血塗られたナイフが彼女の首元で妖しく煌めいている。ビビットな口紅が唇を彩色している。無言で見つめられて、息が誇張抜きで止まった。空気が昔血なまぐさいと感じたマグロの解体ショーの100倍血なまぐさかった。 「……見つかっちゃいましたか」  僕は思わず吐瀉物を撒き散らす。今日の昼に食べた3色丼は、色がもう統一されていた。 「汚っ」  はを3回繰り返した笑いを見せると、包丁を僕に向けた。鋭い刃が僕の肉体をえぐろうと躍起になっているみたいだった。 「どうして、こんな所に来たんですか?」 「……歩いていたら君がいたから。夜に女の子1人は危ないって思って」 「だからってこんな草むらまで来るかなー。それ、立派なストーカー行為ですよ?」  殺人行為を犯している殺人鬼に言われたくは無かったが、僕は口を噤んだ。  西岡は無表情で1歩ずつ僕に近寄る。ナイフを持っている手は少しも震えて無くて、慣れた殺し屋みたいに冷酷な目をしていた。 「ねえ、先輩」  雨が降り出した。これから僕はゾンビ映画みたいに赤に染まるのだろうか。心臓が破裂しそうになる。四肢に力が入らない。蛇に睨まれた蛙のようだ。この状況だと後輩に睨まれた先輩って所だろうか。言葉にすると可愛らしい、って何で死ぬ直前にこんな事を考えているのだろう。 「……僕は君を許さない。人を殺して何とも無いなんて、まともじゃない」  そんな言葉を絞り出すのが精一杯だった。  でも西岡は笑って、躊躇いがちにこう言った。 「……先輩の憎む人を、教えて下さい」
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