3人が本棚に入れています
本棚に追加
「こんにちは先輩。昨日は眠れましたか?」
「眠れる訳無いだろ」
翌日の放課後、部室に行くと西岡が待っていた。
「よく警察に通報しませんでしたね。私に懐いたって事でしょうか?」
「誰が犬だ。今お前が捕まると、ある事ない事吹聴されて、僕まで被害を被るからな」
「意外と正義感無いんですね」
「正義感って奴が腹に溜まるんなら、喜んで育てるけどな。今は僕の大学推薦にも響くし」
西岡は昨日の事がまるで泡沫の夢であったかのように、彼女は映画を用意していた。
「今日は首が6個あるサメのB級映画です」
広告を全て見て、ホーム画面に行き着く。日本語字幕と日本語吹き替え版に設定して、映画が始まった。
「そういえば、昨日の死体はどうするんだ?」
「1つ目は崖から落としましたし、2つ目は雨が証拠を洗い流してくれます。3つ目は焼死体になってますよ」
「そうか……って、3つ目?」
僕が昨日見たのは実質1つ。焼死体になったいじめっ子を入れると2つか。
「僕が君を見つける前に……」
「バスケ部のコーチが私に暴力を振るってたの知ってますよね?人生に汚点を残したくなくて、ついつい」
ケラケラと笑う殺人鬼は、少し寂しそうだった。
「死体の心配をするなんて、先輩は浮気性ですね。それに普通の人は死体を見たらトラウマになるらしいですよ」
「あの時見たゾンビ映画の方がまだグロかったよ」
「映画に負けた死体さん達、可哀想ですね」
映画は佳境に入って、サメとの格闘が繰り広げられていた。
「先輩、あの呪文を唱えて下さい」
「呪文?」
「あれ、覚えてないですか?憎む人をうんたらかんたらとか」
「ああ、君の憎む人を教えて、みたいな?」
「そう、それです!」
彼女はナップサックの小さい方のポケットから口紅を取り出した。
「さあ、言って?」
「……君の憎む人は?」
「青春って言葉を免罪符にしてわたしの生命を脅かした、クソ同級生です」
口紅を丁寧に塗り込む。着色された唇は、宝石のように限りなく高価な物に見えた。
「どうして口紅を塗るんだ?」
「私が殺すって事は、今生で会う人は私が最後になりますから。少しでも美しく見送りたいんです」
「殺さなかったら、見送る必要も無いけどな」
「確かに。言えてますね」
殺す意思に一切の陰りは無いらしく、研がれたナイフを僕に見せびらかした。
「さあ、殺しに行きましょうか」
「何で僕も行く必要があるんだ?」
「あれ?人が死ぬ所が見たいって、顔に書いてあった気がしましたけど」
サメが人に噛み付く。絶叫と悲鳴が映画の華になっていた。
「僕を殺人鬼みたいに言うな、殺人鬼」
「私が先輩に、創作よりも刺激的な物を見せてあげますよ!」
僕の言葉なんて聞いて無いように、彼女はクルクルと回り出した。スカートが綺麗な円を描いて、楽しそうだった。
心臓が、どくんとまた跳ねた気がした。
どうやら僕は本格的におかしくなったらしい。
何故か、死体が見たい気分になっていた。
最初のコメントを投稿しよう!