赤に染まった駄作でも

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「こんにちは先輩。昨日は眠れましたか?」 「眠れる訳無いだろ」  翌日の放課後、部室に行くと西岡が待っていた。 「よく警察に通報しませんでしたね。私に懐いたって事でしょうか?」 「誰が犬だ。今お前が捕まると、ある事ない事吹聴されて、僕まで被害を被るからな」 「意外と正義感無いんですね」 「正義感って奴が腹に溜まるんなら、喜んで育てるけどな。今は僕の大学推薦にも響くし」  西岡は昨日の事がまるで泡沫の夢であったかのように、彼女は映画を用意していた。 「今日は首が6個あるサメのB級映画です」  広告を全て見て、ホーム画面に行き着く。日本語字幕と日本語吹き替え版に設定して、映画が始まった。 「そういえば、昨日の死体はどうするんだ?」 「1つ目は崖から落としましたし、2つ目は雨が証拠を洗い流してくれます。3つ目は焼死体になってますよ」 「そうか……って、3つ目?」  僕が昨日見たのは実質1つ。焼死体になったいじめっ子を入れると2つか。 「僕が君を見つける前に……」 「バスケ部のコーチが私に暴力を振るってたの知ってますよね?人生に汚点を残したくなくて、ついつい」  ケラケラと笑う殺人鬼は、少し寂しそうだった。 「死体の心配をするなんて、先輩は浮気性ですね。それに普通の人は死体を見たらトラウマになるらしいですよ」 「あの時見たゾンビ映画の方がまだグロかったよ」 「映画に負けた死体さん達、可哀想ですね」  映画は佳境に入って、サメとの格闘が繰り広げられていた。 「先輩、あの呪文を唱えて下さい」 「呪文?」 「あれ、覚えてないですか?憎む人をうんたらかんたらとか」 「ああ、君の憎む人を教えて、みたいな?」 「そう、それです!」  彼女はナップサックの小さい方のポケットから口紅を取り出した。 「さあ、言って?」 「……君の憎む人は?」 「青春って言葉を免罪符にしてわたしの生命を脅かした、クソ同級生です」  口紅を丁寧に塗り込む。着色された唇は、宝石のように限りなく高価な物に見えた。 「どうして口紅を塗るんだ?」 「私が殺すって事は、今生で会う人は私が最後になりますから。少しでも美しく見送りたいんです」 「殺さなかったら、見送る必要も無いけどな」 「確かに。言えてますね」  殺す意思に一切の陰りは無いらしく、研がれたナイフを僕に見せびらかした。 「さあ、殺しに行きましょうか」 「何で僕も行く必要があるんだ?」 「あれ?人が死ぬ所が見たいって、顔に書いてあった気がしましたけど」  サメが人に噛み付く。絶叫と悲鳴が映画の華になっていた。 「僕を殺人鬼みたいに言うな、殺人鬼」 「私が先輩に、創作よりも刺激的な物を見せてあげますよ!」  僕の言葉なんて聞いて無いように、彼女はクルクルと回り出した。スカートが綺麗な円を描いて、楽しそうだった。  心臓が、どくんとまた跳ねた気がした。  どうやら僕は本格的におかしくなったらしい。  何故か、死体が見たい気分になっていた。
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