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映画は滞りなく進行して行った。陳腐な恋愛話がこの物語のキーアイテムの花になぞられながら進んでいく。
「この主人公、優柔不断すぎませんか。1歩間違えたら浮気確定ですよ」
「観客の心に何か残そうと必死な感じだな」
「ええ!?そこで煙草吸いますか?」
批判と嘲笑が会話の主な内容だった。西岡は時々目を擦って眠りを誤魔化そうとさえしていた。僕は1回見ていたのもあって、余計に眠たくなった。
「許さないわ!」
「はあ……またこの言葉」
この映画の終盤に紡がれたこの言葉が、彼女の琴線に触れたのか、いきなり饒舌になった。
「私が殺してきた人達も皆許さないって……もううんざりですよ。別に許されたいなんて思っても無いのに」
「許しなんて元々望んで無いのにな」
映画は佳境に入って、主人公が錠剤を飲んだ。
「錠剤飲む必要ありましたか?」
「無いけど、オチが作れないし。こうするしか綺麗に終われなかったんだよ」
「なるほど、駄作ですね」
エンドロールが流れる。西岡は欠伸を噛み殺して、口紅を唇に塗った。
「先輩、最後の報復です。私に尋ねて下さい。いつものような気楽さで」
「……君の憎む人は?」
エンドロールの音が大きくなっていく。映画の方も、僕達の方も。
「私が憎む人は、私自身です」
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