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14話 葵の決断
「し…ぐれ…さん…?ねぇっ、紫雨さんっ!しっかりしてよっ!」
何度も何度も呼びかけるが、紫雨さんは反応してくれない。
今だって触ってるところが痛いのかもしれない…
そんなことを考えればむやみに触る事も出来なくて、でもどうにかしなきゃと後処理を済ませ、素肌が触れないように気をつけながら汗を拭き着物を被せて布団をかける。
辛うじて息はしてるしと思いながらも、紫雨さんがどうにかなってしまったらと思うと怖くて怖くて、紫雨さんの携帯から急いで大樹くんに連絡をした。
「もしもしっ、大樹くんっ…!」
(なんや、葵くんか?どないしたん?)
「紫雨さんがっ…紫雨さんがぁ…グスッ」
大樹くんに事の経緯を説明すると、直ぐに紫雨さんのかかりつけの先生に連絡してくれた。
そして暫くすると大樹くんは先生を連れて駆けつけてきてくれて、先生が紫雨さんを診ている間、大樹くんも先生の補助のために動いていた。
俺は…俺は結局何も出来なくてただ立ち尽くして泣くだけ…
俺じゃ紫雨さんの為に何も出来ない…
「葵くん?大丈夫か…?」
「あっ、うん…」
「紫雨さんは大丈夫や…鎮痛剤打ったゆーてたし薬ももろたから…最近忙しくてサボってたんや病院行くの…せやから気にせんでええ」
「…っ、治る病気なの…?」
「…わからん」
俺が紫雨さんを苦しめてるの?
俺が紫雨さんに触れる事さえしなければ…
ぬるま湯に浸かりすぎて、俺は少し麻痺してたんだ。
暖かい人に暖かい家、ご飯も出てくるし何不自由なく過ごせるこの環境は当たり前なんかじゃない。
そして俺はそれに甘えて、また人を傷つけてしまうのかもしれない…
俺といるとみんな不幸になるんだ。
下唇を噛み締めて流れる涙を拭うと、大樹くんが俺の握りこぶしを包み込むように握りしめた。
「何考えてるん?」
「え…」
「出ていこうなんて考えてへんよな?」
「…っ」
「おったらええやん…紫雨さん悲しむで?」
「っ…でも、俺っ…俺が紫雨さんを苦しめて…それに…」
「わからんかなぁ…?無理してでも葵くんを離したくなかったんやろ…いなくなったらせんせ泣くで?」
薬が効いてるのか、さっきより穏やかに眠る紫雨さん…
けどその寝顔に触れる事も出来ないし抱きしめる事も出来ない…
こんなにそばに居るのに…っ
もしかしたら紫雨さんを苦しめてる事が辛いなんて上っ面の感情で、俺はただ…自分が苦しいだけなのかもしれない。
俺はこれ以上、紫雨さんを受け入れる事が出来ないのかもしれない…
だったら―――
「俺、仕事あるから戻るけど…大丈夫か?」
「うん…ありがとう…」
「目ぇ覚めたら連絡してな?」
「うん…」
大樹くんが帰って静まりかえる部屋の中…
眠っている紫雨さんの頬に恐る恐るそっと触れてみる。
ピクっと反応すると怖くてすぐ離した手をギュッと握ると、また涙がポロリと流れた。
「んぅ…」
「っ…!紫雨さんっ!?」
「あ…あお…い…」
「紫雨さんっ…グスッ、ごめんなさいっ…」
「なんでお前が謝んだよ…ビックリさせたよな…無理やりシて悪かった…」
「ん…っ、いっ…痛くない…?」
「ん…大丈夫…あれ?先生きた?」
「うん…俺、どうしていいかわかんなくて…大樹くんに連絡して、それで…」
「そっか…迷惑かけちゃったな」
「ううん…」
迷惑だなんてそんな事ないっ。
だけど、だけど紫雨さんにとって俺は…っ
少しまだ苦しそうな表情の紫雨さんに、何も出来ない自分の無力さを思い知らされ、涙を拭いながら悔しくて思わず目を逸らした。
「葵…?俺の事…嫌いになった…?」
「なんでっ!?そんなわけっ…」
「じゃあどこにも行くな…」
紫雨さんはそっと体を起こすと、ベットの下にしゃがみこむ俺に覆い被さるように抱きついてきた。
「あっ!だめっ、紫雨さっ…」
「大丈夫…今薬効いてるから平気…」
「ほっ、ほんと?」
「うん…ほんと…」
絶対嘘だ…
確かに先生は薬が効いてるから今は痛みはないと思うって言ってたけど、あれからもう数時間は経っている。
けど、どことなく抱きしめられる腕がいつもよりふんわり柔らかくて安心する…
ありがとう紫雨さん…
でも俺、そろそろ行くね。
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