16話 救いの手

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16話 救いの手

紫雨さんの家を出てからはカフェのバイトに行くのをやめて、夜に専念して毎日2、3人相手してから満喫で寝る…という生活を送っていた。 前のアパートは家賃を払う余裕もなかったから、紫雨さんの家に行くことになった時に引き払ってしまったし頼る友達もいない。 たまに泊まりの仕事を入れれば、そのままゆっくり寝れる時もあるけどそうじゃない時の方が多い… ぼろアパートでもいいから、出来るだけ家賃の安いところをまた探さないと流石に体が持たない。 酷使した体を引きずりながら店を出ると、待ってましたと言わんばかりにまた例のやつらが俺の前に立ちはだかる。 対抗する気力もない俺はさっき貰ったばかりの金をポケットから出すと、その金をすっと誰かが横からかっさらった。 「あっ…」 「おいっ、なんだテメェ!」 「ちょっとぉ…こんなところで揺すりかいな?お兄さんもそない簡単に出したらアカンで…」 大樹…くん!? なんでこんなところに!? こんなことで大樹くんを巻き込みたくは無いのに体が限界で、止める事さえ出来なくて声すら出ない。 「あぁ!?テメェ…」 「あーあかんあかん!これ以上やるなら警察呼ぶで…大声で助けてーって叫んだってもええんやで?」 「ちっ、クソ…行くぞ」 あっという間に退散して行った奴らに、最後まで悪態をつく大樹くんが、立ち尽くす俺の手を掴んで諦めたはずのお札が俺の手の中に返ってきた。 けど、これは返さなきゃ行けないお金で… 「あかんよ?あんな闇金にお金渡しちゃ…」 「けどっ、借りちゃったから返さないとっ…だから大樹くんっ…」 「返さんでええの!葵くん!少しは人を頼れ…な?」 「でもっ…」 厳しい表情で俺の手をぐっと握る大樹くん… 人を頼るって…どうしたらいいの? でも、もし俺が誰かを頼ったらその人はどうなるの? もう誰も不幸にしたくない、もうあんな思いは――― それにきっと、紫雨さんには大樹くんの方が必要なんだと思う。 だから… 「ええから、帰ろ?せんせ待っとるから…」 「でも…紫雨さんは大樹くんのがいいんじゃないの…?俺なんか…」 「やっぱり気にしてたんか…ごめんな。俺と先生は何でもないねん…先生が好きなのは葵くんだけや…」 そんなこと言われても… さっきとは違う優しい表情で俺の手を握りしめてくれる大樹くん。 でも、大樹くんだって紫雨さんの事…好きなんじゃないの? 俺だっで紫雨さんが好きだけど、お金も返さなきゃだしこれ以上迷惑かけたくないし、それに自分自身があの状況に耐えられるのか分からない… 紫雨さんを傷つけたくないんだ。 「俺…自信ない…っ」 「葵くん先生のこと好きやないの?」 「…っ、好きだよ…好きだけどっ……あの、お金、ありがとう。じゃあ…」 「葵くんっ!」 引き止める大樹くんの手を払いのけ、名前を呼ばれても振り返る事なく歩き始めた。 俺にはもう帰る場所なんてない… もう戻らない…そう決めてたのに… 再び掴まれた手の感触にハッとして振り返れば、俺の手を握るのは大樹くんではなくて、息を切らし寂しげに微笑む紫雨さんだった。
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