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ゆるさない心
話し合いが終ったと高林家に電話が入った。
晴美と雪美は20時を回った夜道を二人だけで家に帰った。歩いて6~7分にある我が家まで、ふたりとも黙ったまま歩いた。
帰宅した後、おかあさんにタッパーを返すと
「全然食べていないじゃない。食べる場所もなかったの?」
と叱責された。
子供達の心の中など何も考えていないのか?
いや、そうではない。きっと食べられないことは分かっていたのにわざとそういうことを言うのだ。
父の事を【ゆるさない】ことと同時に、自分の腹の虫もおさまらず自分以外のすべての事を【ゆるさない】のだ。
こうなってしまうと誰にも母を止められない。逆らえば叩かれる。さすがに小学校にまでなっているのに叩かれるのは嫌だった。
「ごめんなさい。」
と、ふたりで謝り、その日はお風呂にも入らずに眠るよう言われた。
もっと小さいときは良くたたかれたり、板の間に正座をさせられたりしたが、さすがに母も最近では手は上げない。
その代わりに今回のような陰湿なやり方で、心を傷つける。
不思議と、母の事を【ゆるさない】と思ったことはなかった。
まだ、子供だったこと。浅くではあるが、母も苦しんでいるのを知っていたこと。
昼間近所の人たちと話している時の母の大きな声で笑う、素敵な笑顔が嘘だとは思いたくなかった事。
あの、昼間の笑顔さえ嘘だと思ってしまったら、母の事はただの怖い人になってしまい、晴美の心はその場で壊れてしまうだろう。
しかし、大人になった今、やはり母のしたことは虐待であり、許されざることだと考える日はある。
それでも、【ゆるさない】とは思えない。
もう、母は亡くなってしまったのだから。
今は悲しい思い出として、他人を許すことのできなかった母は、実は自分が一番苦しかったのではなかったか。と思いを馳せる。
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