夏の夜の夢

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 砂丘に造成されたニュータウンの幹線道路を海に向かって車を走らせる。しばらくして現れた海に沿う有料道路の下のボックスを抜けると、視界いっぱいに海が広がった。  妻の悠里が久しぶりに海を見たいというのでここまで来たのだった。護岸ブロックで土留めされた、砂浜より一段高い所に車を停め、30mくらいの距離のある波打ち際まで二人でゆっくりと歩いた。  今日は、まさに〝べた凪〝で、浜辺に打ち寄せる波だけがわずかに白波を生じ、あちらこちらで〝ザブン、ザブン〟と小さな音を立てている。  空は薄曇りで、水面は光が反射し白く、海中に目を凝らすとようやく海の緑色がうかがえた。街中はひどく暑いが、ここだけは時折吹く風が心地よい。  コロナ禍が三年目となる夏だが、この海水浴場は今年も営業を断念したようだ。   浜辺は静かだ、一組の若いカップルが青い小さなテントを張って女性がくつろいで、男性の泳いでいる姿を眺めている。  もう一人、全身黒ずくめのサングラスをかけた中年男性がルアーフィッシングをしている。今の時期は〝マゴチ〟を狙っているそうだが、今日はまだ当たりがないという。
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