悪戯ハロウィン(前編)【Side 桜】

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 使用人部屋の一番奥にあるお兄様の部屋をノックすると、すぐに扉が開いた。 「お兄様!」 「来たね、桜。いらっしゃい。小さな魔女さんなんだね?可愛い。あと、ゆき……ちゃんも……」  黒猫さん姿の雪さんを見て、顔を赤くするお兄様。良かった。お兄様、絶対喜んでくれると思った。 「こ、こんな格好ですみません。失礼します」 「ゆ、ゆきちゃんもすごく可愛いよ!ほ、本当に!二人ともどうぞ」  動揺するお兄様の顔を見てニヤニヤしていると、口パクでコラって怒られた。お兄様ったら、嬉しいくせに。  お兄様の部屋はキチンと片付いていて、モノクロに統一された落ち着いたお部屋だった。窓際の勉強机にはたくさんの参考書が積まれてあって、お兄様の日々の努力が伺える。 「ではお兄様、さっそく。トリックオアトリート!」 「はいはい。ちゃんとお菓子用意しといたよ」  はいと渡された透明のビニールの中には、本物の惑星を小さくしたような、キラキラとした球体が入っていた。とっても綺麗。 「お兄様、これすごく素敵ね」 「でしょ?チョコレートなんだよ。中には桜の好きなイチゴソースが入ってるんだ。外側は僕の一番好きな惑星の水星。僕たちの好きがギュッて詰まってて良いでしょ?」  優しく微笑みながら頭を撫でてくれる。ああ、本当に。お兄様は世界一素敵な男性だ。嬉しくて、嬉しくて、ギュッて抱きつく。 「ありがとう、お兄様」 「どういたしまして」  存分にお兄様との抱擁を堪能したところで、チラリと振り返る。雪さんは、本当にやるの?という顔をしてたから、やるんですって視線で伝える。雪さんは心底困った顔をしてから、グッとお腹に力を入れて声を出した。 「も、桃ちゃん!」 「なぁに?ゆきちゃん」 「と、トリックオアトリート!」 「え!?」  驚くお兄様。それもそのはず。雪さんはダイエット中なのでお菓子はいらないと、事前にみなさんに伝えてあったのだ。 「だ、だって、あれ?」 「トリックオアトリートです!」 「ご、ごめん!ゆきちゃんの分のお菓子用意してないんだ」  申し訳なさそうに謝るお兄様に、ゆきさんがゆっくりと近づいていく。 「ど、どうしたの?」  目の前でピタリと止まり、両手をゆっくりと伸ばしてお兄様の腰に添えた。 「え!?な、なにゆきちゃん!?ちょっと、近いというか……いや、全然嫌とかじゃないんだけど!」  慌てるお兄様を真っ直ぐ見つめながら、雪さんが小さく呟いた。 「ごめんなさいっ」 「え、なに?……あっ!?あはははははは!」  ゆきさんのくすぐり攻撃に、お兄様が身を捩って爆笑する。すかさず首にかけたスマホを構え、何枚もシャッターをきった。
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