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悪戯ハロウィン(後編)【Side 桜】
辿り着いたのはキッチンだった。そーっと中を覗くと、緑さんがスーツの上にエプロンをして何かを箱に詰めている。
「こんばんは、緑さん」
「桜。悪い、部屋にいる約束なのに間に合わなかったな。へぇ、魔女の服、似合うじゃん」
まさか褒めてもらえると思っていなかったので、お礼を言うのが一歩遅れてしまった。お兄様との会話から、もっとお子様なのかと思っていたけれど、案外落ち着いた方なのかもしれない。
「あ?幸村もコスプレしてんのか」
「はい。もうだいぶ羞恥心が薄れてきたので、何とでも言ってください」
緑さんはゆっくりと雪さんを眺めてから、徐ろにポケットからスマホを取り出して、何も言わずにピコンと彼女の写真を撮った。
「み、緑君、写真はダメです!」
「何でもして良いっつったろ」
「『何とでも言って』って言っただけです」
「羞恥心薄れてんならいーだろ」
「今日は薄れてますけど、明日になったら回復しますよ。だいたい何に使うんですか?」
「見て笑う」
「酷いです!」
なんだか、とっても仲良しな二人を呆然と見つめていると、雪さんが気がついてくれて、やっと最後のセリフを言うことができた。
「トリックオアトリート!」
緑さんは無言で、先程の箱を渡してくれた。中にはピンクと赤のマーブル模様のマカロン。
「わっ!綺麗!これ、緑さんが作ってくれたんですか!?」
「ああ。お前のイメージの色作るの大変だった」
こんな可愛い色合いが、私のイメージなんて。心がじわっと温かくなった。
「緑さん、とっても嬉しいです!ありがとうございます」
「おう」
「結婚相手は無理ですけど、不倫相手にならしてあげてもいいですよ?」
「コラ、お前は意味わかって言ってんのか」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。子供扱いは悔しいけど、なんだか嬉しかった。
「では桜さん、最後のアレいきましょうか」
「はい!いきましょう」
ニヤニヤと雪さんと顔を見合わせて、訝しげな顔をした緑さんに向き合う。
「トリックオアトリート!」
「言うと思った」
雪さんの勝ち誇った声をかき消すように淡々と告げると、緑さんは彼女の手に小さな箱を置いた。
「これ、私にですか?」
「そうに決まってんだろ」
ゆっくりと開かれる箱を隣から覗くと、中には小さめのマカロンが入っていた。キラキラとした白色と淡い水色のマーブル模様だった。
「綺麗」
静かに呟く雪さんの泣きそうな表情から、本当に喜んでいるのが伝わってきた。
「緑君、ありがとうございます」
「ん」
なんだか、映画のワンシーンみたい。お互いがお互いを大切に思ってるのが伝わってきて、私までキュンとしてしまう。
……あれ、でも、何か忘れてるような。
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