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資料室の秘密【Side 緑】
「お前、最近なんか変わったな」
目の前でモリモリと弁当を食う慶谷を眺める。アホ面は前と同じだが、いつもフワフワと落ち着きなく浮き足立っているイメージが、今は地上に降りてきてビシッと着地を決めた感じがする。
「へ、ほう?」
「口に物を入れたまま返事すんなよ」
特に小南と一緒にいる時の変化がすごい。普段は幸村も入れて四人で昼飯を食うことが多いが、そういう時、小南と慶谷は姉と弟、いや、飼い主と犬みたいな関係に見えた。でも今は、ちゃんと付き合ってる彼氏彼女に見える。
「小南となんかあったのか?」
「ひぇ!?」
どっから出してんのか、妙に甲高い声を発した後、慶谷はキョロキョロとあらぬ方向に視線を移動させた。
「な、なんもないですよ?」
「……ヤッたのか」
「なんでわかんの!?」
カマかけただけなのに、あっさりと自白してしまうこいつの素直さは嫌いじゃない。ほんと、アホだなぁ。なんでこいつが数学でトップ取ってんのか意味わかんねぇ。
「へぇ。小南とお前がそこまで進むとは」
「旭ちゃん照れ屋さんだから、内緒な」
眉間に皺を寄せて人差し指を口の前に立てる。そんな表情でも幸せそうに見えるから凄い。なんつーか、正直羨ましい。
「で、どうだったんだよ?」
「どうとは?」
「だから、初体験」
卵焼きをパクリと口に含みながら訊ねると、慶谷は目を見開いて、箸で摘んだ唐揚げを落とした。
「か、神木がちゃんと男子っぽく興味を示している!」
「俺のこと、何だと思ってんだよ」
イラつきながら、今度はほうれん草に箸を伸ばす。でも確かに。屋敷に住む前の俺なら、そういうことに全く興味を持っていなかったかもしれない。あの頃は生活にいっぱいいっぱいで余裕がなかったからな……。
「俺は嬉しいよ神木!ウェルカムトゥ男子の世界!」
「うるせぇ。いちいち大袈裟なんだよ」
慶谷はシシっと笑って、再び唐揚げを持ち上げながら語り出した。
「正直……すっげー幸せだった」
「へぇ」
「体もだけど、それより心が繋がれたというか……仲が深まった感じ。さらに旭ちゃんのこと、大事にしようって思えた」
節目がちに語る慶谷は、すごく大人びて見えた。なんか。すげぇかっこいい。慶谷のくせに。
「くそ羨ましい」
「ははっ、神木がどんどん素直になってく!つーか、神木なら彼女すぐできるじゃん。めっちゃモテるし」
「誰でもいいってわけじゃねぇんだよ、バカ」
「ですよね。……てかさぁ、それって幸むモゴっ!?」
あいつの名前が口から出る前に、俺の弁当のハンバーグを突っ込む。くそっ、メインのおかずなのに。
「うまー!神木また腕上げたんじゃない!?」
「そりゃどーも」
慶谷は黒さんと仲良いし、余計なことが伝わるのは避けたい。だいたい、こいつが俺の気持ち知ったら、『黒さんと神木、どっちを応援すればいいんだー!?』とか馬鹿なことで悩みそうだし。まぁ、黒さんが本気でアイツを好きなのかは知らねぇけど。
でも……まぁ……好きなんだろうな。あの二人の信頼関係は、見てればわかる。
あー、こんなんでモヤモヤするとか、カッコ悪い。小さくため息をついて、仕方なく残りのほうれん草をおかずにご飯をかき込んだ。
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