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「昔のすごい人……ノブナガとか?」
あれ、ノブナガって戦国だっけ。そもそも一八六六年って何時代だ? もしかして、一八六六年がバクマツなのか?
社会の教科書に載ってるかな、って思ったけど、そういえば教科書は学校に置いてきたんだった。
母さんたちに聞いたって、今はそれどころじゃないって怒られるだろうな。
部屋の時計は【PM8:28】を示してる。和真があと三十分帰ってこなかったら、警察に電話するって言ってた。
警察って、この家にくるのかな。そしたら新聞やテレビにのって、和真のことを呼びかけられて、学校で大騒ぎになって、それから……。
「……あいつ、そういうの一番嫌いだよな。」
人に迷惑をかけるとか、目立つことが苦手なやつだ。
母さんの目を盗んでこっそり出かけて、帰ってこないなんて考えられない。
やっぱりあいつ、家から出てないんじゃないか……?
そう思ったおれは、和真の机の引き出しをあける。
財布は机の中。ハンカチとティッシュ、それから手帳が入っているらしいバッグも机の横にかかってる。
あいつ、高学年になったぐらいから、どこに行くにもバッグを持ち歩いてたのに。
それに気づいたとたん、ドクン、ドクンと心臓の音が速くなる。
パッとタブレットを見たら、問題を出している侍のキャラクターが怪しく笑っているように見えた。
もしも、おれがさっき、本当に別の世界に行っていたんだとしたら。
和真も同じ目に遭って、そしてまだその世界の中にいるんじゃないか……?
やっぱりマンガやゲームのやりすぎなのかもしれない。今日のできごとが全部夢だったなら、どんなにいいだろうか。
おれは和真の机の上にあるペン立てからタッチペンをとって、震える手で画面の白いスペースに押しつけた。
『おだのぶなが』
おだ、ってどう書くんだっけ。そう思ったから、全部ひらがなで書いた。
また侍のキャラクターが「BAD!」と言う。きっと答えが間違ってたんだ。
……そしてピカッと、画面がまぶしい光を放つ。
ぐにゃり、目の前が揺れる。立っているのか座っているのかわからない、そんな感覚。さっきと同じだ。
『ザンネン! 正解を確かめてきてください!』
これも、さっきと同じセリフだ!
このあと、また知らない場所に飛ばされるのか⁉︎
ぎゅっと目をつぶる……その前に、なんとか部屋の時計を確かめた。
デジタル時計の表示は【PM8:31】。
指先から強い力で吸い込まれるような感じがして、おれの意識はまたとぎれた。
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