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「あ……創太。よかった、帰ってたのね! 和真は? 和真はいっしょじゃなかったの⁉」
「え、いっしょじゃないけど……。それより母さん、どこ行ってたの? 夕飯は?」
のんきにそう聞くと、キッとするどい目を向けられてビクッとする。走ってきたのか髪もぐちゃぐちゃで、なんだかおれの知っている母さんじゃないみたいだ。
母さんはいっしゅん眉毛をつりあげて口を開いたけど、ふぅ、と小さく息をはいて。
そして、とんでもないことを言ってきた。
「……和真がいなくなっちゃったのよ。」
「……はぁ?」
真剣な顔の母さんに、おれは目を見ひらく。
「どこに行くとも言われてないし、玄関にクツだってあるのに、いないの。」
我が家のルールは、
・出かけるときは家族に行き先を告げてから行くこと。
・小学生のうちは、門限は六時。
の二つだ。
だからおれも今日、ちゃんと「友だちのサトシたちと市民グラウンドでサッカーの練習をする」と言って家を出てきた。門限はちょっとやぶっちゃったけど……。
ちなみにおれと和真は二人ともスマホを持っていない。
「あんたたち二人とも帰ってこないから、いっしょにいてくれればいいなと思ってたんだけど……。」
「和真が、おれといっしょにサッカーすると思う?」
「……思わない。ねぇ、和真が仲いい子とか、心当たりない?」
「知らないよ。……だって……。」
「だって、何?」
「い、いや。やっぱなんでもない。」
教室での和真の姿を思い浮かべて、首を横に振る。
近所のコンビニ、大きいベンチがある公園、歩いて十分の距離にある市立図書館。
母さんは和真が行きそうなところをぐるっと回ってきたけど、どこにもいなかったらしい。
時計を見ると、針はもう午後七時を指していた。
三十分おそく帰ってこなかっただけで心配になって探しに行く母さんも大げさだと思うけど、これで門限から一時間だ。まじめな和真の性格が、なにも言わずに門限を一時間もやぶるなんてありえない。
それより気になるのは、和真がいつも履いてるスニーカーが玄関にあるっていうこと。
母さんがよく履くゴミ出し用のサンダルも、おれと和真のよそ行き用のクツもちゃんと棚の中に入ってる。
「……家の中に隠れてるとかじゃないよな?」
もちろんあいつは、そんなことをして家族を困らせるようなやつでもない。
それでもいちおう家中を確認して、最後におれと和真の部屋にもどって。クローゼットの中やふとんのふくらみの下も見たけど、和真の姿はなかった。
なにやってんだよ、あいつ。
いつも、おれとは比べものにならないくらい「いい子」のくせに……。
おれはこぶしを握りしめて、昨日のケンカで自分が言ったことを思い出していた。
『うるさいな! おまえなんか、ぜんぜん友だちいないくせに!』
……そう、和真には、こういうとき真っ先に連絡するような友だちがいない。
それどころか、学校の休み時間だってほとんど一人で過ごしてる。そんなこと、俺の口からは母さんに言えないけど。
でも、さすがにひどいこと言っちゃったな。
あいつ、それで家出とかしたんだったら、どうしよう。
こんなことになるなら、ちゃんとあやまっておけばよかった……。
おれも探しに行かなきゃ。そう思って立ち上がった、そのとき。
ピカッ
和真の机の上にあったタブレットが、きゅうに光って。
のぞきこむと、「BAKUMATU QUEST」と書かれた、見たことのないゲームの画面が立ち上がっていた。
なんだこれ。こんなアプリ、知らない。
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