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「亀さん、すみません! せっかくここまで連れてきてくれたのに!」
おれはもちろん、案内の亀さんだって無駄足だ。
三日も歩き続けて、ヘトヘト。
だけどおれは少しでも早く京都に戻らなくちゃいけない。
てっきり怒られると思ったけど、亀さんはくるっと踵を返す。
「……それなら、急いで戻ろう。船に乗る前でよかった。坂本さんの頼みだから君を預かってここまできたが、本当ならおれも、京を離れている場合ではないんだ。」
「えっ?」
おれは早足で歩きながら、亀さんの話を聞いた。
この時代の日本の政治の中心は、東京ではなく京都であること。
これまでの世の中を守ろうとしている、新撰組を含めた幕府側と、新しい日本を作ろうとしている攘夷派で争っていること。
そして坂本さんは、いろいろな人たちにその命を狙われていること……。
つまり、坂本さんと新撰組は敵同士なんだ。新撰組が警察みたいな組織ってことは、坂本さんは悪いことをしてる罪人なのだろうか。おれには坂本さんが悪い人には見えなかったけど。
「……坂本さんって、何者なんですか?」
「あの人は、だれよりもこの国の行方を考えている。未来のために、この国のあり方を変えようとしているのだ。その野望のためなら、危険な目に会うのもしかたない。」
同じ日本人なのに、命を狙ったり狙われたり、戦いをしかけて無理に言うことをきかそうとしたり。
信じられない事実に、目眩がする。
少なくとも、今の日本じゃ考えられないことだ。
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