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行く、と言いかけて固まったおれを見て母さんが首をかしげる。
「創太、どうするの?」
「あ……えっと……。」
「なんか顔色悪いわね。和真が帰ってくるかもしれないし、創太は家で待ってて。もし帰ってきたら、お母さんのケータイに電話してね。」
戸惑ったままの頭で、なんとかうなずく。
ドタドタと階段を降りていく母さんの足音を聞きながら、部屋の時計を見ると。
「……進んで、ない?」
デジタル時計の表示は【PM7:25】。
この数字、さっきも見た。
ぐわんって、変な感覚になったときも七時二十五分だったよな。
もしあの後おれが眠って夢を見たんだとしても、時間が一分も進んでないなんておかしい。
え? まさか夢すら見ていなくて、マボロシだったのか?
でも、目を閉じるとハッキリ浮かぶのは、ギラっと光った刀がおれに向かってくる光景。
邪魔をするなと言ったおっさんの声も、靴下ごしに草を踏んだ感覚も、覚えてる。
「……。」
頭を押さえながら、おれは最近読んだマンガのストーリーを思い出していた。
あれはたしか、主人公がヒロインを助けるために同じ場面を何回もやりなおす話だった。リセットボタンを押すと最初の日の決まった時間にもどって、くり返して学んだ知識でヒロインが傷つかないルートを選んでいくんだ。
……たとえば、さっきの刀を持ってるおっさんたちとのあれこれは夢でもマボロシでもなくて、おれが実際に体験していたことで。
刀で斬られてリセットされて、七時二十五分にもどってきたんだとしたら。
おれ、もしかして今、『ループ』してる……?
心臓の音がドクンドクンと大きくなって、背中を冷や汗が流れる。
「さすがに、ウソだろ……?」
母さんや創太に話したら、マンガやゲームのやりすぎだって言われるだろうな。
だけどなぜか、胸騒ぎがするんだ。
夢であってほしい。そう思って、ベタだけど自分のほっぺをつねったら、ちゃんと痛かった。
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