エピローグ:QUEST?

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エピローグ:QUEST?

「……よかった、ちゃんと仲直りできた。」  二〇八〇年、日本。  技術者の私は、時間旅行を可能にするプログラムを作り出した。  データ型のそれは、タブレットなどの端末に取り込めばその端末自体を時間旅行の装置として使用することができるようになる。  もう七十歳になる私には、人生の中で一つだけ心残りがあった。  それは、小学生のころに双子の兄とケンカして、その関係が修復できなかったこと……。  明るくて友だちも多い兄に引け目を感じて、ささいなケンカをきっかけに避けるようになってしまったんだ。  こんなおじいさんになっても、私と兄はずっとしゃべらないまま。  たった二人の兄弟なのに、って両親を悲しませてしまっていた。  だから私は過去にもどって、幼い私と兄が仲直りするきっかけを作りたかった。  時間旅行ができるのだから、江戸時代に行って、坂本龍馬や新撰組に会ってみたい。  戦国時代に行って、織田信長が本当に怖い性格だったのか知りたい。  行きたい時代はたくさんあるけれど、まず最初に……。 「二〇二二年の、秋。」  あの日の私のタブレットに、このプログラムをウイルスとして転送する。  周りに引け目を感じているあのころの私は、喜んで過去に滞在したがるだろうと思った。  ……その結果は、成功だった。  過去を変えたおかげで、未来が変わる。  さすがに日本史の教科書に載るようなできごとを変えることはしないけど、どこにでもいるような兄弟を仲直りさせるぐらいはいいよね? 「偉人って、やっぱりすごいな。」  勉強嫌いの兄に、知ることの楽しさを教えてくれた。  勝手に孤独をせおっていた弟に、もっと周りの声に耳をかたむけることを教えてくれた。  だから私は、この国の歴史が好きなんだ。  プログラムは、ウイルスとして他の子どものタブレットに転送させた。  もし君がこまっていたら、とつぜん時間旅行ができるようになって。その旅が君に大切なことを気づかせくれるかもしれないよ。 〝ピーンポーン〟  自宅のチャイムが鳴る。  インターフォンの向こうには、昔から「似ていない」とよく言われていた顔。  おたがいにおじいさんになってしまったけど……たった二人きりのきょうだい。 『まだ研究してるのか? いっしょにサッカーの中継観ようぜ! 花は今日は娘たちの家に行ってて一人なんだ。』  変わらない笑顔を見せながら、飲み物が入った袋をゆらしている。 「ーー入って。サッカーもいいけど、ちょうどすごい研究が完成したところなんだ。」  私は玄関をあけて、双子の兄を招き入れた。                                      (おわり)
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