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「……わかった。あと一時間待って帰ってこなかったら、警察に電話しよう。」
父さんがそう言うと、少しだけ母さんの顔が明るくなる。
そしておれと父さんは母さんが温め直したシチューを食べた。どうやら母さんは食欲がないみたいだ。
おれも正直、味はよくわからない。
そして三人いるのに誰もなにも喋らない、この空間が気まずいと思う。
「あ、あのさぁ。本当に警察に電話すんの?」
「……。」
「あいつ、そのうちひょっこり帰ってきたりして。それより聞いてよ、おれ、さっき変な夢見てさ……。」
「なんであんたはそんなにのんきなの!」
母さんがドン、とテーブルをたたく。言い過ぎだと父さんが怒る。おれはハッとして下を向いた。
……和真、何やってんだよ。母さん、お前のことすげー心配してるぞ。
おれのことなんか、どうでもいいってくらいに……。
「ごめん。ごちそうさま。」
なぜだかちょっと泣きそうになったから、急いで食べ切ってあわてて二階にあがった。今日は「食べた食器ぐらい片付けなさい」って怒られなかったな。
リビングにも、廊下にも和真が自由研究や科学コンクールでもらったたくさんの賞状が飾ってある。おれの名前が書いてあるのは、学校内のマラソン大会とか学校を休まなかった賞とか、そんなのばっかりだ。そりゃあ、和真のほうが大事で心配だよな……。
ため息をつきながら部屋にもどると、和真の机の上に置きっぱなしにしていたタブレットの画面がまだ光っていた。
タブレットって、ある程度時間がたったら自動でオフになるもんだと思ってたけど、違ったのかな。
画面をのぞき込むと、そこにはまだ同じ問題の画面がうつしだされていた。
さっきは問題をちゃんと読まなかったけど、なんで書いてあったんだ?
「えー……、一八六六年、にし……読めねーし。」
社会、それも歴史の問題は大の苦手だ。ちなみにその次に苦手なのは国語。
この問題からわかるのは、一八六六年に何かをしたらしい人の名前を聞かれているってことぐらい。
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