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1 弟が消えた⁉︎
「ただいまー。ごめん、ちょっとおそくなった……って、あれ?」
すっかり空が暗くなった、午後六時半ごろ。
家に帰っても出むかえてくれる声がなくて、おれは首をかしげる。
いつもなら母さんが台所から「おかえり。」と言ってくれるのに。
しかも今日は門限を三十分もオーバーしてしまったから、文句がとんでくるって思ってた。
サッカーシューズの入ったカバンをおいて、洗面所に行って手を洗って。
トイレも風呂場もチェックしてみたけど、人の気配はなかった。
なにか買い忘れて買い物にでも行っているのかな。マジメで料理好きな母さんにしては、買い忘れなんてめずらしいけど。
「てか、腹減ったな……。」
夢中になって友達とサッカーの練習をしていたから、午後はお菓子ぐらいしか食べてない。
お腹から『ぐぅ』と大きな音が鳴って、苦笑いしながら階段をのぼる。
「和真(かずま)―。母さんどこ行ったのー?」
部屋にいるはずの弟に声をかけたけど、こっちも返事はなかった。
おれ・林(はやし)創(そう)太(た)は小六。スポーツが好きで、クラブはサッカー部。勉強は……そんなに得意じゃない。
仕事がいそがしい父さんと、主婦の母さん。それから双子の弟の和真の四人家族だ。
和真はすごく頭がよくって、テストはいつも満点。それからパソコンいじりが趣味で、夏休みの宿題の自由研究でプログラミングをやったり、オリジナルのアプリを作ったりして全国的に表彰されちゃうような……いわゆる「天才」ってやつ。
どう考えても勉強じゃかなわないから、おれは自分の得意なスポーツをがんばることに決めてる。
双子だって、それぞれ得意なことや不得意なことがあったっていいよな?
って、おれは思ってるんだけど……。
『創太はもうちょっとマジメに勉強したほうがいいよ。中学に入って、ついていけなくなるよ。』
昨日の夜、和真にそんなことを言われてケンカになったのを思い出した。
あいつ、昔は「兄ちゃん兄ちゃん」って、泣きながらおれの後ろをついてきてたのにな。
さみしさ半分、ムカムカする気持ちが半分。
おれが兄貴なんだし、やっぱりおれのほうからあやまったほうがいいのか?
でも和真だって、あんなにえらそうに言わなくても……。
そう考えてモヤモヤしていた、そのとき。
ガタガタ、ガチャン!
一階から大きな物音がして、びっくりする。
あわてて階段を降りると、玄関に息を切らした様子の母さんが立っていた。
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