プロローグ

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プロローグ

その朝、我が家のコザクラインコが死んだ。 死の間際にかなり暴れたのか、鳥籠の中には大量の羽が落ちている。 「うわぁ…」 その様子を両親から見せられた副島菜月(そえじまなつき)は思わず顔をしかめた。可愛がっていたとはいえ、グロいものはグロい。 「ベガ、寿命だったの?っていうか、この子が来たのっていつだっけ」 菜月は尋ねた。父が、確か三年前くらいじゃなかったか、と答えた。 「うそー、三年だったらまだ早いじゃん。ベガ、病気だったのかな?」 「でも、そんな様子はなかったと思うんだけど…やっぱり、ここに引っ越して、環境が変わってしまったから…」 母も残念そうだった。 「とにかく、そのまま放置しているわけにもいかないし、外に埋めてやろう」 父は鳥籠の扉を開け、冷たくなった小さな生き物を手のひらに載せた。 「ここは墓地も近いから、こいつのこともすぐに埋葬してやれるな。とっても皮肉な話だが」 「あんまり墓地の話はしないでよ。気にしちゃうから」 菜月は父を咎めた。引っ越してきてその数日後に、今まではピンピンしていた生き物が死んだということが、彼女を憂鬱な気分にさせた。 「何かあったの?」 眠たそうに弟の雄介(ゆうすけ)は居間に続くドアの向こうから顔をのぞかせた。そのぱちりとした目は、本当に父そのものだなと菜月はいつも彼を見るたびに思う。 「ベガがね、亡くなってしまったのよ。天国に行ってしまったの」 小学三年生の雄介は一瞬、きょとんとした顔をした。 「かわいそう」 「そうだよな。雄介の友達だったもんな、ベガは。あとでお父さんと一緒にお墓をつくろう。立派な墓にしてやろうな」 小学生というのはデリケートなもので、みるみるうちに雄介の両目からは涙があふれ、頬を伝った。 一方で、高校二年生の菜月はといえば、心を痛めるというよりも、なんでこんなことが、という原因が気になって仕方なかった。まるで、猫が籠ごと持ち上げて揺さぶったような暴れ方だ。しかし、我が家にはビーグル犬のロコはいても、猫はいない。 (なーんか、ヤな感じ…)
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