プロローグ

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(なーんか、ヤな感じ…) それは菜月がこのマンション、いやこの町並みを見た時に、何となくそんなことを感じた。菜月は昔から、こういう悪い予感を覚えることがある。そういう予感は当たらない時も当たる時もあって、自分でもよく分からないのだが、とにかくあまり良い兆候ではないことではあった。 ただ、今回のこの予感に関しては、かなりに起因するものが大きいと思う。周りの光景だとか、そういうものも含めて、あまり気持ちの良いものではないのだ。しかしながら、今回は引っ越しってきたばかりの土地であり、いくら何でもすぐに立ち去ることなどできるはずがない。 それまで住んでいた日当たりの悪い賃貸に比べると、ここはまるで海辺の小粋なリゾートホテルみたいではあった。十階建て、世帯数二十。ワンフロアに二世帯しかなく、左右対称に造られた間取りは全て同じでも、バルコニーの位置をそれぞれ少しづつずらしてあるので、外から見ても平面的な感じはしない。 玄関を入ると南向きに十五畳のリビングルーム、独立したキッチン、廊下の脇にバス、トイレ、洗面室が並び、北向きには洋室が三部屋。各部屋には小ぶりの造り付けのクローゼットまで完備されている。 また、最寄り駅のT駅からも近い。父の勤める会社への出勤は三十分足らずで乗り換えも必要ない。菜月の高校も同様で、雄介の小学校も徒歩十分というところにある。コンビニやスーパーも五分ほど歩けばすぐに行けるし、病院も駅前にある。もちろんペットも可である。 副島家はそこまで裕福というわけでもないので、このマンションは両親なりにかなり奮発したのではないかと菜月は推測している。そこには、雄介や菜月のため、という意味が大いに含まれているに違いない。だからこそ、『嫌な予感がするから早く引っ越そう』などという提案ができるはずもないし、もし出来たとしても、却下されるだけだ。 (何もないはず、なんだけどね…)
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