湖の管理者

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 女は真希と名乗った。  今年成人式を迎えたばかりの、大学三年生だそうだ。 「最初はね、友達に誘われたの。綾香っていうんだけど、リゾバって時給もいいし、まとまったお金になるから一緒にやろうって。リゾートホテルとかちょっと憧れもあったし……ほら、素敵な出会いもあるかも、なんて期待もあったりして」  夏休みの繁忙期を迎えたリゾート地での住み込みバイト。略してリゾバ。  蓋を開けてみりゃどうせ朝から晩までボロ雑巾のようにこき使われて、期間が過ぎればお役御免で使い捨てされるだけの現代の奴隷契約みたいなもんだ。  なのにこうして頭の中がお花畑なめでたい学生たちが、毎年のように飽きもせず大量にやってくる。憧れのリゾートでひと夏の素敵な出会いなんて、何十年も前からある夢物語までご丁寧に描いた上で、だ。 「そこで会ったのがたぁくんで……たぁくんたちはこっちの大学の人たちで、最初は綾香が仲良くなったの。私達ほら、バスで来たから車ないでしょ? たぁくんたちは車持ってるから、必要なものとかあれば買い物連れてってあげるよーって言ってくれて。優しい人たちで良かったねって、私も綾香も喜んで」  最初は近くのスーパーまで連れて行ってくれるだけだったのが、ついでに一緒に食事をし、近くで行われた花火大会に誘われ……とどんどん仲が深まっていった。 「こっちは二人、あっちは五人で、最初はいつも七人で遊んでたの。でもね、たまたま私と綾香のシフトが違って、私だけ早番であがれるっていう日があって、その時にたぁくんに誘われたの。二人でご飯でも食べに行こうって。正直たぁくんってあんまりタイプじゃなかったんだけど、どうせ一人でいても暇だし、おごってくれそうだからいいかなって思って」
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