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湖の管理者
木立ちを抜けると、月明かりを浴びて白銀に光る湖が見えた。
雲のない、月の綺麗な夜だ。
海とは比べるべくもない狭い砂浜が伸びる中、漆黒の塊のようにうずくまった人影が目に入る。
ざっ、ざっ……。
踏みしめる度に、足の裏で砂が鳴るのを感じながら、俺は近づいていった。
「ここで、何をしている?」
……返事はない。
蒸し暑い風が奏でるさざ波の音の中に、うずくまった影が……女のすすり泣く声だけが、静かに響き渡っていた。
「……ぐす……ぐす……」
またか。
内心呆れながらも、俺は女の隣にしゃがみ込んだ。
「ここで会ったのも何かの縁だ。何があったのか、話してみないか?」
女は恨めしそうな目で俺を見上げ、ひと際大きく鼻をすすると、ようやく口を開いた。
「私が、馬鹿だったの……。信じてたのに……こんなことになるなんて」
想像通り、今まで耳にタコがてきるほど聞かされてきた決まり文句だ。
遠くで安っぽい打ち上げ花火が破裂するパァンという軽い音が響いた。夏の夜の湖で見られる風物詩といえば、キャンプに花火、暴走族……そして泣く女。共通してるのは、いずれも青臭い馬鹿なガキどもの仕業だってことぐらいか。
どれもこれも俺の縄張りを荒らす、迷惑な連中ばかりだ。
それを片付けるのが、俺のライフワークみたいなものなんだが。
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