玉鉾威風

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 ずっと乱暴な変人のイメージでいたが、男気ある行動もとっていて、クラスのみんなから恐れられながらも慕われていて、誰もが彼の力に頼っていた。  当時の私には、それが全く理解できなくて、変な奴としか映っていなかった。  私には意地悪しなかったことや、陰で他の子から守ってくれていたことなどもあって、彼に関して間違った思い込みをしていたのかもしれない。  認識を改めると同時に、当時の態度について猛省した。 「あの頃は、いろいろと助けてくれていたんでしょ。冷たくしてごめんね」  彼は照れながら笑った。 「そんなこと、俺は気にしていない」  彼の乱暴な言動は、村に蔓延った理不尽な差別に対して起こしたものであり、正義感が強かったからこそ、怒りが暴走したのだ。 「あの木に登るように言ったのは、一ノ関新治君だよね。あの木が腐っているって知らなくて、自分がそそのかして事故が起こったって、ずっと後悔していたよ」  玉鉾威風は、目をしばしばさせて、しばらく戸惑っていたが、「そうか、あいつ。そんなことを」と、悲しそうに言った。 「彼はあなたが死んだあと、そのことで福籠早耶人に殺されて、今まで苦しんできた。充分報いを受けているから、許してあげて」 「あいつ、殺されたのか!」  玉鉾威風はショックを受けた。  初めて知って、かなり驚いていたが、「俺が死んだのは、あいつのせいじゃない。もしそのことを気にしているのなら、俺は何も恨んでいないと伝えて欲しい」と言った。  彼は、とても綺麗で純粋で、友達思いの優しい心の持ち主だった。  私は、馬園倉重について訊いた。 「馬園倉重さんの失踪だけど、福籠早耶人が怪しいって知っていたの?」 「いなくなる前に、あいつの名前を口にしていたような気がした。もしかしたら、二人の間に何かあったんじゃないかと思っただけで、完全に勘だ」 「一ノ関新治君は、そのことも福籠早耶人に詰め寄ろうとしたみたい。それで呼び出されて殺されてしまった」 「何もかも一人で抱えて解決しようとしたのか」  玉鉾威風は、「それは間違っている」と嘆いた。 「あの木を登ると女の子にモテると、ウソのジンクスを彼に吹き込んだのも福籠早耶人よ」 「それで腐った木に登らされたのか!! 憎んでも憎み切れない!」  玉鉾威風の怒りが増幅し、怨霊化しそうだったので、「落ち着いて。あいつは捕まって、相応の罰をちゃんと受けているから、憎しみの感情を持たないで」と、なんとかなだめた。 「チクショウ……」  恨めしそうな玉鉾威風。幽霊となった今の自分に、何も出来ないことも自覚しているようだ。  そのことばかりに囚われないよう、話題を変えることにした。 「最後に訊きたいことがあるんだけど、素っ裸になって叫んだことがあったよね? あれ、何だったの?」 「そんなこと、したっけ? 覚えていないなあ」  とぼけているのか、曖昧な返事で誤魔化そうとしている。気になっていた私は、しつこく追及した。 「絶対した! ものすごく驚いたんだから!」 「そうかあ。あれは、なんとなくモヤモヤしたから、スッキリしたかったんだよ」  ようやく口を割ったが、どうもスッキリしない。本人も明確な説明は出来ないようだ。 「そろそろ行くから。玉鉾君もここから離れるといいよ」  落ち着いている今の状態ならこのまま浄化してもいいはずなのに、何かに憑りつかれたように再び木登りしていった。そして、一番高い枝から落ちた。ビデオのように事故の瞬間を何回も再現する。 「どうして?」  よく見ると、彼の周りにも半透明の黒い膜が覆っていた。  一ノ関新治と同様に、彼にも福籠早耶人の呪いが掛かっていた。  これを取り除かない限り、彼らは永遠にその場にとどまり、同じ行動を繰り返してしまうのだろう。  一人一人と話し合えばなんとかなると思っていたが、どうやら考えが甘かったようだ。  こうしている間にも、玉鉾威風は何度目かの木登りをしている。 「少しでも、彼らの救いになりそうなことをしなきゃ」  一ノ関新治の所へ戻ると、「玉鉾君に会ってきた。俺が死んだのは、あなたのせいじゃない。もしそのことを気にしているのなら、俺は何も恨んでいないと伝えて欲しいって言っていたよ」と伝えた。 「ありがとう」  一ノ関新治は、玉鉾威風の気持ちを知って号泣した。  ずっと抱えていた悩みやわだかまりが一つでも減れば、それだけ魂の救済が近づくはずだが、そうなるためにしなければならないことがある。  この村は、呪われている。それを解かなければ、彼らの魂は救われない。  福籠早耶人という、村の黒い歴史が生み出した巨大な恨みの塊。彼の歪んだ念があまりに強烈すぎて、私の力でどうにか出来るのか。とても不安である。
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