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「先生はそれをずっと聞き流していた。妄想、あるいは、注目されたくて生み出した虚言。そう考えていたからだ。子供というものは、素直で想像力がある。怖い怖いと思っていると、ないものでもあるように見間違えてしまう。現実と妄想と願望がごちゃ混ぜになることは、子供にはよくあることだ」
「……」
都鶴は、目を逸らした。歯を食いしばるその横顔には、悲愴感が漂っている。
「ところが、その噂がある日を境にピタリとやんだ」
都鶴の伺うような目線が蛇石に突き刺さる。
「星降市留さんが転校してきてから、噂が立たなくなった。幽霊を見たというものがいなくなった」
「たまたまじゃないですか?」
「果たして、そうだろうか?」
「何を言いたいんですか?」
「時間がないので、単刀直入に言おう。君が廃トンネルの幽霊の正体だったんだろ?」
都鶴がぎくりとした。
「どうして私だと?」
「簡単だよ。君だけは一切信じていなかったからさ」
「……」
「それに、君はあの場所に星降市留さんを平気で連れて行った。そんなことが出来たのは、君が廃トンネルに幽霊などいないと知っていたからだ」
「……」
都鶴は、もはや反論すらしないで、力なくうな垂れている。先ほどから感情の起伏が激しく、全て顔に出ている。対照的に、蛇石はほとんど表情を変えず淡々としている。それは彼の性格であり、昔から変わらない。
「君は、誰かが来ると線香をたき、リコーダーを吹いて驚かせた。生首は、提灯にカツラでも乗せて後ろに向けて転がしたんじゃないか? 提灯は小さく畳めるし、カツラも軽くて持ち運びに困らない。子供たちを騙すのは、それほど難しくなかっただろう。こうして、やってくる子を次々と驚かすことで、廃トンネルには幽霊がいると噂が立った。そして、誰も来なくなった」
都鶴が声を荒げた。
「私だったら、どうだって言うんですか⁉」
「認めるんだね」
都鶴が憎々し気に蛇石をみる。蛇石は臆することなく続けた。
「君を責めるつもりはない。そんなに怒らないでくれ」
「じゃあ、どうして今頃そんなことを訊くんですか?」
「これは、福籠早耶人の事件につながる重要なことだからだ」
「これが?」
都鶴が怪訝な顔になる。
「福籠早耶人は、呪いの儀式を廃トンネルで行った。そのきっかけを作ったのは君だ」
「私⁉ 私が関係しているというんですか⁉ あの男と⁉」
蛇石の思いがけぬ指摘に、都鶴は驚き動揺した。
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