十輪都鶴

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「触媒って、どういう意味ですか?」 「福籠早耶人は、君が呪いの儀式をあそこで行っていることを知って、自分もやってみようと思いついたんだ。つまり、君が影響を与えたってことだ。それが触媒って意味だ」 「ええ!」  都鶴は、とんでもない誤解を受けていると感じた。 「私にそんなつもりはありませんでした!」 「福籠早耶人の悪意は、あくまでも彼自身の問題。だけど、呪いの儀式に関しては、君が彼にヒントを与えたから実行されたんだ」 「そんなことになっていたなんて……」  都鶴は、縛り首のようにいたずらされていた提灯を思い出した。 「そう言えば、廃トンネルに置き忘れていた提灯に、いたずらをされました。古いタオルで絞め上げるように縛られていて、誰かがここで良くないことをしていると知ってから、気味が悪くて遊びに行くのを止めました」 「それも福籠早耶人だろうね。君が来ないように、脅しのつもりでやったんだろう」 「そうかもしれません」  提灯には、十輪家の家紋が入っていた。ここへ頻繁に出入りしていたのが誰か、彼は知っていただろう。あの頃から目を付けられていたかと思うと、都鶴はゾッとする。福籠早耶人は、どこかでこちらを見ていた。冷たい目で観察し、機会を伺い、残酷無比な計画を綿密に立てていたのだ。 「僕は、村全体が今でも早耶人の呪いに掛かっていると思っている。呪いは、掛けた本人が捕まったからといって自動的に解除されない」 「恐ろしいですね」 「彼に殺された君の友人たち。彼らの魂は、呪いによって今でも苦しんでいる。呪いからは死んでも逃れられない」 「それじゃあ、市留も? 七奈も?」 「ああ。そうだ。他にもたくさんのクラスメイトたち。福籠彩人も、あの地に縛られて成仏できずに苦しんでいると思う」 「お葬式もしたし、墓参は出来ませんが、命日には冥福を祈っていますけれど、ダメなんですか?」 「残念ながら、呪われた霊には届かない」 「そんな……。一生懸命に冥福を祈ったのに、全部無駄だったなんて」 「葬式もお墓も、生きている人たちのためにあるのであって、その場から離れられない魂にとっては、そんなことが起きていることすら知らない」  都鶴は、報われない市留のことを思うと悲しみで苦しくなる。 「どうすればいいんでしょうか?」 「呪いを祓うしかない。早耶人の呪いが払われれば、亡くなった魂は自由に動けるようになって、やがて自分が死んだことに気付くだろう。そうなれば、行くべきところに行ける」 「呪いを祓えば、皆が助かるんですね!」  都鶴は、解決方法が分かって喜んだが、すぐまた不安になった。 「でも、どうやって呪いを祓うんですか? 下手に関わると影響を受けてしまいそうで怖いです」  怯える都鶴に蛇石は、「覚悟の上だ」と力強く言った。 「先生がするんですか?」  てっきり、高僧にでも依頼するのかと思っていた。 「先生も、真賀月村で生まれ育っている。村に伝わる呪いの儀式についても、一応の知識を持っている。勿論、祓う方法も」 「危険じゃないでしょうか? 福籠早耶人は、相当強力な呪いを掛けていそうですけど」 「それは充分承知の上。これは、早耶人と先生の勝負だ」  蛇石がとても頼もしく見えた。 「私も頑張ります」  蛇石は、首を横に振った。 「いや。危険だから、君は参加しなくていい」 「いえ。協力させてください。こんなことになって、私が全く無関係とは思っていません。福籠早耶人に玉鉾陽向が協力したように、先生には私が付きます」 「無理するな」 「いいえ。あの時、毒で死んだのは、私だったかもしれないんです。市留が死んでからも呪いで苦しんでいるとしたら、居ても立っても居られません」  都鶴は、あの時のことを思いだしてしんみりした。 「本当は、市留と二人で助かりたかった。死んだ人は生き返りませんけど、せめて死んだ魂が安らかに過ごせるようにしてあげたい」 「分かった。じゃあ、一緒に行こう」  都鶴の市留に対する熱い友情に心を動かされた蛇石は、都鶴を真賀月村に連れて行くことにした。 「ところで玉鉾陽向って、どうして福籠早耶人に協力したんでしょうか。あの男を共に行動していたら、いつかは破滅すると分かりそうなものですけど」 「男女の仲は、分からないからなあ。悪い男に魅力を感じることもあるだろうし、身も心も心酔していたとしか思えないな」  その質問には、蛇石でも明確な答えを得られていない。
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