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福籠彩人
かつて豪農として名をはせた「福籠家」。目に入る田畑、松茸が豊富に採れたという近隣の山も福籠家のものだ。
真賀月村への入植は他の人たちより遅かったが、持ち前の才覚で先代は広大な土地を取得した。農地を失った村人たちを小作として雇い入れ、自分たちは専ら村長や村議などの職について政を行うなど、政治力にも長けていた。
福籠家の墓地まで来た蛇石と都鶴は、墓碑に刻まれた名前と享年を確認していく。
早耶人彩人兄弟の父、祖父、曾祖父は、いずれも40~50代で亡くなっていた。これは、異常な多さである。
「福籠家は、当主が早死する家系だな」
「遺伝的な病気でしょうか? それとも、呪い?」
「呪いだろうね。借金の形として、山林や農地を容赦なく取り上げたと言われている。それだけでなく、農地を失った村人を小作として雇い、低賃金でこき使ったらしい」
「それで恨まれて呪われたというんですか? 借金する方が悪いし、お金を返さない自分たちが悪いのに。彼らに仕事を与えてあげたんでしょ? それに、新参の村民を小作としてこき使ったのは先住村民が先。立場が変わって、同じことをやり返されただけのこと。それを恨んで呪うのは筋違いだと思います」
都鶴は、十輪家も最初は苦労したと祖父母から聞かされて育っていたから、福籠家に同情的な見方となる。
「勿論そうなんだが、自分たちの方が立場は上であるという思い上がりがあったから、新参村人が古参村人に生意気なことをすると痛い目に遭うぞという、懲らしめ的な意味合いもあったんだ」
「自分たちはやってもいいが、お前たちはやるなっていうことですか? 勝手ですね」
都鶴は、納得がいかない。
「積年の恨みが早耶人の代で暴発したんだろうな。さ、母屋に行ってみよう」
墓地から歩いてすぐの場所に、古い日本家屋がある。敷地内には、三世帯がゆうに暮らせそうな広さの母屋、農作業小屋、牛馬舎まであった。裏手に行くと、使われていない古井戸。早耶人は、ここに犯罪の痕跡を捨てていた。事件の後に、警察が徹底的に浚ってすべて回収されているから、今は何も落ちていないはずだ。
玄関の鍵が壊れていたので、開けて中に入る。
早耶人が逮捕されてから、いろんな人が出入りしたようで、土間が足跡だらけ。風通しは悪く、カビの匂いがする。
暗い中を進むため、蛇石は持ってきた懐中電灯で照らした。
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