福籠彩人

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「七奈の死を伝えたことは、失敗だったかもしれない」  彩人が豹変した原因は、早耶人だ。七奈の死を知った彩人は、絶望の淵に陥った。正気を失い、早耶人に付け入る隙を与えてしまった。  彩人が早耶人に操られているのは間違いないが、疑問がある。 「さっきの早耶人の声はどこから? 早耶人が警察に捕まっていることは確かだ。脱走した話も聞いていない。もしそうだとしても、生きている早耶人にそんなことが出来るのか? それとも、早耶人だけが知っている、霊を操るでもあるとでもいうのか?」  どのように声を出して彩人を脅しているのか、蛇石には見当がつかない。 「先生! 彩人君が!」  彩人が手を伸ばして、蛇石に掴み掛かってきた。 「彩人君! 気をしっかり持て!」 「ボオオオオオ……」  彩人は、次元が違う世界に行ってしまったかのように、意志の疎通が完全に不可能となった。  迫りくる魔の手に、都鶴が悲鳴を上げる。 「イヤアア! 先生! 怖い!」 「扉から逃げよう!」  入ってきた扉から逃げ出そうとしたが、入る時はあっさり開いたのに、今は押しても引いてもビクともしない。 「先生! 開かない!」 「焦ってはダメだ!」  そういう蛇石も、焦って混乱した。  スライド式だったかと思って横に引いたが、それも無駄であった。扉が見えない力で封じられている。 「オオオオオ……」  彩人が蛇石に迫る。 「ウワアアアアア!」  蛇石が初めて絶叫した。彩人が蛇石の体内に、ズズズ……と入っていく。 「やめろ! 僕に入ってくるな!」  掴もうとしても、実体がなくて素通りしてしまうから、なすすべがない。そうこうしているうちに、彩人と蛇石は同化した。 「先生!」  目の前で、彩人が蛇石に入り込む異様な様を目撃した都鶴は、恐ろしくなった。  蛇石の体が乗っ取られた。次にきっと、蛇石になった彩人がこっちを襲ってくるだろう。  霊体であっても、肉体であっても、絶対に力で適わないと分かっているから、恐怖でしかない。 「こっちに来ないで!」  しかし、体を乗っ取られた蛇石は、都鶴に向かってこなかった。ビクン、ビクン、と痙攣していたかと思うと、その場に卒倒した。倒れた蛇石の体から、彩人がズズズと体から這い出てきた。 「蛇石は呪い殺した」 「ウソ! ウソよ!」  蛇石が死んだことなど、都鶴は信じたくない。 「次はお前だ」 「ヒィ!」  都鶴の全身に戦慄が走る。 「ボオオオオオ……」  彩人の体が崩れて、風船のように膨張していく。 「今度は何?」  次に何が起きるのか、先が全く読めない。彩人の体がドンドン膨張して、空間が狭くなっていく。このままでは潰されてしまう。 「イヤアアアア! こっちに来ないで!」  都鶴は、わずかなすき間を見つけては、必死に逃げた。 「蛇石先生! 早く起きて! 目を覚ましてえ! 蛇石先生!」  逃げまどいながらも、蛇石の復活を願って必死に声を掛け続けた。  蛇石は、白目をむいて倒れている。
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