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「だから、大丈夫。二人を信じましょう。七奈、彩人君を止めてくれる?」
七奈は、大きく頷くと彩人に向かった。
「気を付けて!」
都鶴は、そんなにうまくいくはずがないとまだ疑っている。
七奈が彩人の膨張した霊体に抱きつくと、「彩人、私のこと、分かる?」と囁いた。
彩人がビクッと震えたかと思うと、膨張が止まった。空気が抜けるみたいに縮んで元の姿に戻った。
「七奈! 会いたかった!」
「私も!」
二人は、固く抱き合って再会を喜び合った。
「ウソでしょ!」
目の前で起きているのに、都鶴はまだ信じられない。
先ほどまで、殺意しか見せてこなかった彩人が、元の穏やかな顔つきに戻って優しく七奈を見つめている。七奈も、それに応えるように優しく微笑んでいる。
そのまま二人は煙のように消えた。
「どこに行ったの?」
「二人の世界、かもね」
「それはどこにあるの?」
「きっと素敵な場所だと思う。そこでしばらく暮らしたら、いずれ現世に生まれ変わって、再び出会って、その時こそ幸せに暮らしてほしいわね」
市留は、二人の幸せを願った。
愛のために死んだ二人。これからも愛のために生きていく。都鶴は、そう考えただけで、心が震えて目に涙が溢れた。それに市留が気づいた。
「二人のために泣いているの?」
「多分、頭で考えている以上に、心が感動している。彩人君は、自分で死んでしまって、それは罪深いことだけど、七奈のために仕方がなかった。だから、究極の愛だなって。死ななくても、どうにかならなかったのかなとも悔しく思うし。いろんな意味で泣けてしまう」
「その涙は、きっと二人に届くよ」
「うん」
その時、倒れている蛇石が目に留まった。すっかり忘れていた。
「あ、そうだ! 蛇石先生!」
駆け寄ってみるが、やはり、息をしていない。
「市留、助けられない?」
「死んでからそれほど経っていないなら、まだその辺にいるかも」
辺りをキョロキョロ見回すと、蛇石の霊体が呆然と浮遊しているのを市留が見つけた。
「あそこにいる! 良かった。遠くに行っていなくて」
市留は、蛇石に近づいて手を掴んで引っ張ってくると、本人の肉体に半ば無理やり押し戻した。乱暴なやり方だったが、蛇石が息を吹き返して目を覚ました。
「ウウ……」
「蛇石先生! 良かった! 生き返った!」
「都鶴君……」
蛇石は、まだぼんやりしていたが、都鶴の顔を認識している。横から市留が顔を出して声を掛けた。
「お久しぶりです、蛇石先生」
「……、ワアッ!」
蛇石は、市留に気付くと大声を出した。
「先生、星降市留です」
「ああ、市留君か。驚いた」
「先生、彩人君に殺されたところを、市留が助けてくれたんです」
「そ、そうだったか。ありがとう。で、彩人君はどうなった?」
「七奈と一緒に、二人の世界に旅立ちました」
「二人の世界?」
蛇石は、狐につままれた顔をした。市留と都鶴は、簡単に分かるはずないかと、目を合わせてクスクス笑った。
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