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一ノ関新治
校庭のウサギ小屋があった場所に行く。
ここでは、馬園倉重の死体が埋められて、一ノ関新治が殺されていた。
地面が凸凹して、何度も掘り返しては埋め戻した形跡が見て取れる。
「一ノ関新治君」
呼びかけると、体をクの字に曲げて、お腹を両手で押さえた半透明の一ノ関新治が現れた。
「ウー、ウー」
苦悶の表情で唸り声を出している。こちらにまで苦しさが伝わってくる。
私にはもともと霊感なんてなかった。それが、あの夏以来突如霊能力が目覚めて、幽霊が見えるようになり、会話も出来る様になった。
この村に戻ってきたのは、この能力を利用すれば、被害者の幽霊たちから真相を聞き出せると思ったからだ。
特別な修行をしたわけではないので、憑りつかれても自分で除霊できない。
彼が憑りつくというわけではないが、中には怨霊・悪霊化しているものがいないとは限らない。
憑依されないように、注意を払いながら話しかける。
「一ノ関新治君。もう終わったのよ。だから痛くない」
「痛い、痛いよ……」
伝わっていないようで、脂汗を流して呻いている。もう一度言う。
「あなたはもう死んだの。だから、苦しまなくていい。ほら顔を上げて。もう痛みはないはず」
一ノ関新治が驚いて私を見る。
「死んだ? 嘘だろ?」
「本当よ。周りを見て。ウサギ小屋がないでしょ。取り壊されたの」
「そんな……」
周囲を見てショックを受けている。
「ウサギ小屋が無い……」
事実を飲み込むまで、しばらく時間が掛かりそうだ。
幽霊には時間の概念がなく、同じ時を延々と繰り返すのだが、周囲の変化に気づくことで、少しずつ自分の死を理解していける。
「私、転校生の星降市留だけど、覚えている? あなたが死んでから、もう何年も経っているから大人になっているけど」
一緒に授業を受けた期間は短かったから、覚えていないかと危惧したが、「ああ、転校生のお前だったのか」と思い出してくれた。
「俺、死んだのか……」
私の成長を見て、時間の経過が分かったようだった。
「このウサギ小屋で、最後に何があったか教えてくれる?」
「俺は、福籠彩人の兄貴に襲われたんだ」
絞りだすような声だ。死んでいる彼に嘘を吐く理由がない。だから真実だろう。
私は、やはりと思った。彼は、福籠早耶人に殺されていた。これが真実だ。
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