福籠早耶人

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「ウワア!」  驚いた蛇石は、叫びながら思わず飛びのいた。その拍子に懐中電灯が手から滑り落ちて、床で跳ね返って光が乱反射した。それに照らされた帯が遠くへ逃げ出て行った。それを見て思いついた。 「とっておきの手段があった!」 「先生、何か思いつきましたか?」 「ああ、今の見たか? あいつら、懐中電灯の光で逃げていった。霊は薄暗いところを好む。つまり、光に弱いということだ」 「じゃあ、照らせば、道が開けるということですね」  電池の消耗を遅くするために、周辺を照らす懐中電灯の光は弱い。少ない光量では、遠ざけることは出来ても倒すまでいかない。蛇石は、光量を増やせば倒せるんじゃないかと考えた。 「この懐中電灯は、アウトドア用の高級品。光量や照射範囲を操作できるんだ」  懐中電灯の光量を増やして、照射範囲を絞った。さっきより、強く遠くまで光が届くようになる。それを早耶人に向けてフォーカスした。  光を当てられた早耶人が苦しそうに顔をゆがめる。 「思った通り、効果がある!」  このまま倒せると思ったが、早耶人はすぐに対策を講じた。光を防ごうと、部屋中に張り巡らせていた漆黒の帯を手元に戻す。シュルシュルと、音を立てて早耶人の元に集まったそれらで全身を覆い隠し、繭のような黒い塊を形作った。 「チャンスだわ!」  市留が黒い塊に飛びついた。少しずつ引きちぎっては、自分の霊力で消した。 「あれは何をしているんだ?」  市留のしていることを見極めるため、蛇石と都鶴は目を凝らしたが、仕組みが良く分からない。だが、引きはがされていくことで、少しずつ塊が小さくなっていく。 「頑張れ!」 「もう少しよ!」  とうとう、中から早耶人の顔が出てきた。  市留が蛇石に叫ぶ。 「早耶人の顔に光を当てて!」 「分った!」  蛇石は、強力な光を早耶人の顔に照射した。光に照らされている間は手出しが出来ないようで、大人しくなった。 「やめろ! やめろ!」  早耶人は、光を苦しがってもがき、逃げようとしている。蛇石は、一瞬たりとも外さないように全神経を集中した。 「まだまだ!」  漆黒の帯が全てはがされ、とうとう早耶人と恨みの顔だけとなった。その顔を一つずつ剥がしては消していく。 「もう少し、もう少しよ……」  怨霊が一つずつ消されていき、早耶人のみになってしまったところで明りが消えた。部屋全体が再び闇に包まれる。 「しまった! 電池が切れた!」 「こんな時に⁉ 予備の電池は?」 「持ってきていない」 「なんてこと!」  闇が増えれば、早耶人の力は盛り返す。頭を抱えるが、どうしようもない。案の定、早耶人が威勢を取り戻した。 「お前ら、絶対に地獄の苦しみを与えてやるからな! 覚悟しておけよ!」  漆黒の帯が再び早耶人から生えてきて、市留を攻撃する。 「あう!」  市留の体に巻き付いて締め上げていく。そのまま、早耶人の元へと引き寄せられた。このままでは、塊に取り込まれてしまう。市留は、必死に抵抗したが、闇の力が強すぎる。
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